2020年10月24日土曜日

24、魔法少女育成計画restart

こんちは人都です。
あれです、今日はもういろんな要因でボロボロなのでまともに文が書ける気がしません。
さっき酔っぱらった状態で部屋のアンプに小指ぶつけてそのままふて寝しようかと思いました。
ですけれど、25日まで来て更新を止めるのはさすがに忍びないので無限回読んでる本の話だけします。
魔法少女育成計画 restart (前) (このライトノベルがすごい! 文庫) 遠藤 浅蜊 https://www.amazon.co.jp/dp/4800201829/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_zZeLFbNXE7X0V
最高の魔法少女と地獄の百合、ライトノベルらしくない質感に定評のあるまほいくシリーズ二巻目です。

このごくありふれた世界の裏側には「魔法の国」という不可思議な力を行使する独立国家が存在しています。
そしてそこから人間世界への万遍の無い干渉と調査、そして少しの善行の為に成立しているのが「魔法少女」と呼ばれる存在です。
この前編表紙で事態が呑み込めないような顔をしながら巨大なフライ返しを掲げる少女「ペチカ」もその一人。
魔法少女たちのほとんどは妖精のスカウトマンを通じて希望の下に試験を経て魔法の国の要望や指令に時折答える代わりに、固有の二つとない魔法と素材が何であれ非の打ちどころのない美少女の容姿となることの出来る変身権そして驚異的な身体能力等の超常的異能を若干私的利用してもよいという対価を得ることで合意を結んでいます。
しかしながら、その固有魔法というものは使いやすいものからピーキーなものまで確認されるのにもかかわらず、合意を得た後でなければ自分がどのような力を授かれるのかは運営の目線からも全く知ることが出来ないというのが一つの欠点ではありました。
それが人助けに役立つものか、暴力言語を補助するものか、はたまたどうやって使うのか見当のつかないものまで。
そしてペチカの授かった人を喜ばすことに適した魔法「とても美味しい料理を作れるよ」は言葉すらも交わすことの出来ない争いの場において、全く使う当てのないはずれの魔法に成り下がってしまいます。

ペチカが突然強制的に巻き込まれたのは「魔法少女育成計画」と題された異常にリアルなゲーム形式の異世界でした。
魔法少女の世界には若干荒くれた者による戦闘鍛錬サークルや運営により近い機関があるとは聞いたことはありますが、魔法少女の中ではごく平凡であったペチカには理解できない状況に巻き込まれる因縁の覚えが一切ありません。
RPGのように襲い来る敵モンスターを殴ることすらできず、やっとのことでパーティに滑り込んでもおいしい料理は何物も傷つけることは平凡に幸福な中学生の彼女の性格や魔法の特徴からしても不可能で、結局のところ全員がかわいい戦闘ヒロインの中では大して働くこともできないお荷物になることしか出来なくなってしまいます。
「戦う魔法少女」と「戦わない魔法少女」の間には容易には分かり合えない溝がありました。
時が経つにつれ、この異常な空間には常識的にありえないはずの要素が組み合っていることが判明してゆきます。
解くことの出来ない変身と経過日ごとに口座に加算される金額、安全対策の杜撰なステージと自己犠牲を推進するようなシステム、倒すべき魔王の不在と魔法少女の対立を煽るイベント、魔法の国との連絡手段の遮断そしてゲーム内と連動した現実世界での死。
そんな理不尽な状況であってもペチカには生き抜く決意として、現実での一筋の恋がありました。
あまり愛嬌のある容姿ではない智香にとって、あこがれのサッカー部の男の子・二宮君とお近づきになるにはその有無を言わせぬ美少女の体と胃袋を掴むことの出来るペチカの存在が必須だったから。
ペチカたち16人の魔法少女ははゲームのクリア、そして討伐すべき魔王と裏に隠された陰謀に持てる物の全てでぶつかることを決意します。

まほいく初の二段構成作品であり、その分公募作品であった無印版以上に作品内に「人間としての彼女たち」が組み込まれ作者が得意とするガワと中身の対比がとてもよく効いた作品です。
無印は共同の敵が良くも悪くもいなかったのですが、今回はクローズドシナリオに加え失踪した魔王についての謎解きや、自分たちの集められた理由についての謎等が存在することでバトルロイヤルと人狼ゲームめいたサスペンスも楽しむことが出来ます。
そして無印からは内に秘める物が加速したスノーホワイトもチラリと登場しますよ。
そしてこれは何度でも言いますが、人が何人も死ぬのにちゃんとこちらに印象を残して時に別の少女に意思を遺していく描写のお家芸がもう抜群に効いています。
別発売の短編で平穏な日常を補完するのも、傷にブートジョロキアぶち込むぐらい衝撃を与える作家ですからね……魔法少女は誰だって主人公になり得る……。
あとプフレとシャドウゲールのコンビはほとんど合法麻薬カップリングです、知ってね。

限界が近いのは今日はこの辺で。
まほいくを読みなさい。
人都でした。

2020年10月23日金曜日

23、リング

 こんちは人都です。

リング (角川ホラー文庫) 鈴木 光司 https://www.amazon.co.jp/dp/4041880017/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_Q5QKFbA6GYHV3
今日は途中に気分の問題で読むのを止めてしまっていたホラーの名作を読みました。
この本で気分を悪くした、というよりも現実の関係でおどろおどろしいものから距離を置きたくなることが過去にあり、そのため積読タワーの一部となっていた本です。
私はいつもこのブログを書く際にamazonの販売ページのリンクを付けているのですが、なんというか新装された方の表紙を見ると若干目が合って嫌です。
こちらの古いバージョンは全然平気な表紙なんですけれどね…。
ちなみに、私は今まできちんとリングシリーズの映画を見たことが実はなく、強いて見たのも貞子VS伽椰子を薄目で、というレベルなのでそちらのことは一切語りませんし語れません。
そして今後も絶対に見る気はありません。
ホラーの媒体で一番苦手なの実写なんです、怪談とかならいくらでも大丈夫なんですけれど。

週刊誌記者である主人公・浅川は偶然乗り合わせたタクシーの運転手の他愛もない雑談から、九月五日に発生した高校生らの場所を違えた奇妙な同時不審死事件の存在を知りました。
話を聞くところによればその遺体の共通項として何の前触れもなく心臓発作で即死したことや死の直前に頭を掻きむしったかのように髪が抜け落ちていたこと、そしてその顔がいずれも恐怖に歪み目を見開いていたと目撃者や調査資料は語るのです。
退屈でありふれた社会派取材に飽き飽きとしていた彼は、ジャーナル精神からこの不気味で奇妙な偶然に惹かれ好奇心の向くままに同時不審死の被害者の身元と予測される共通項を割り出し始めます。
それらの物証の終点にあったのは高校生集団の旅にいかにもありそうな箱根のホテル、そして客が寄せ書く形式の旅ノートとラベルの無い一本の黒いビデオテープでした。
浅川は取材の一環として問題の一室でその謎のビデオテープを視聴し、この映像がただの恐怖ビデオではないという身を持った気づきと、一週間の余命宣告を得る当事者となるのです。
これは自分一人の力では解決することが出来ないことを悟った浅川は、軽率ながらも幅広い人脈を持つ腐れ縁の危険な男・竜司を合意の下でこの因縁に巻き込みます。
ビデオに残された「あるおまじないを実行しなければ一週間でお前は死ぬ」という呪い。
しかしながら、何者かによって偽装の為にごまかされたその「おまじない」。
彼らはその正体を突き止めるため、定められた運命に抗うためオカルトに対し徹底的な情報収集を始めることとなるのです。

この小説は恐らく商業Jホラーで一、二を争う知名度を持つ恐怖存在「貞子」が初出した作品です。
しかしながら、あまりにもその「白ワンピ、長髪、目力」等の若干そういうジャンルとして概念化しているビジュアルはこの紙面ではほとんど描写されることがありませんし未視聴の私にも分かるほど映像化された印象とは似ても似つきません。
言ってしまうと「来ません」、これ実は「来ません」。
どちらかといえば異常現象に人の技術の全てで迫る、死のリミットに追われたサスペンスや謎解きのミステリーに近いでしょうか。
こういうことを言うのも怒られてしまいそうですが、漠然とした呪いや異常に対して非常に古典的で地味な作業を繰り返しながら迫っていく様子はどこか財団系の作品にも似た妙な存在しないリアリティを思わせます。
もしかして実写映画化された際に映像スタッフの癖が如実に出てああなった部類の作品なのでしょうか……。
これは「貞子というホラーキャラクター」に恐怖することを楽しんだり登場人物の不遇さを笑う作品というよりかは、「山村貞子という数奇な一生」に焦点を当てた情景描写の豊かなドキュメンタリーやルポに近いかもしれません。
本当に全然派手な恐怖はないんです、その代わり常時綿を喉に詰まらせるような感覚に陥ります。
そもそも貞子って死んで変異した霊的存在よりも超能力者に近しいなんて知らなかったし。
いわゆる怖い女が近寄ってくるJホラーな映画通りのイメージを求めると、若干拍子抜けしてしまいそうですが所見の私にとっては非常に質が高いサスペンスとして楽しむことが出来ました。
確かに対象は非日常的で不定形の恐怖を湛えていますが、常人であっても実施に足を使い情報をかき集めることで確かにその輪郭をとらえることが可能なかつて実在した存在です。
ちょうど家に「らせん」も備えていますから、近いうちに読んでしまおうと思います。
意外とグロテスクや性的のシーンもないので、表紙の怖さは抜きに映像のリングがだめでも小説のリングはかなり読みやすいかもしれませんね。
とってもおすすめです。
人都でした。

2020年10月22日木曜日

22、マーメードスキンブーツ

 こんちは人都です。

今日も図書館の廃棄救済枠の本を読みました。

Mermaid Skin Boots 桜井 亜美 https://www.amazon.co.jp/dp/434401068X/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_qtAKFbZBSQ67E

なにかそういうタイプのモデルさんの写真集にも見える独特な俗っぽさ、とけだるげな視線。

タイトルのよく考えれば意味の分からない「マーメードスキンブーツ」という言葉は何を指示しているのか。

それは2005年にフリードリッヒ・フォン・ワルターの提唱したDNAの可能性を論じた意見からの引用でした。


この物語の主人公は美大で彫刻を専攻する20歳を目前にした破滅的性分を持つ女性、綾瀬ナジュです。

彼女は元来漫画絵やイラストを好んでいましたが、爛れた壊れかけの家庭はそれを許さず結局離縁するような形で夢を優先させることでナジュの現状は成立していました。

その現状とは大学をふまじめに修めつつ、退廃的に搾取されるためのセックスフレンドを五人も侍らしてはダーツで当たったものを気晴らしのために呼び出すという、到底清いとは言い難いどろりとした美学以外には何もない乱雑な「エロいおもちゃ」を演じる生活です。

そんな生活の中では、彼女は自身のことを高い頻度で人魚姫に、一人暮らしの部屋を最高の理想の世界観を実現する城として改装し、見立てるようにして評価を下します。

何故そんな半ばうぬぼれたことがいえるのか。

それは奇妙な偶然か呪いによってか、彼女の家系の女が20歳でどんな状況であれ命を落とすという不可思議なジンクスにまとわれていたからでした。

実際に彼女はそのせいで身内も、最も大切な姉も失ってしまった過去があるのです。

そしてそんな家庭の中、父親はナジュを不潔でだらしがないと終わらない批判をぶつけるだけの存在となり果てていました。

彼女は結果的に家を出ることで志望進路へと歩みを勧めたものの、その先にあったのは「自分には才能がある」という自惚れのみでは戦うことの出来ない世界です。

ぐちゃぐちゃな思想の学生たちと、ある程度の距離感と共に囲まれながらナジュの劣等感と寂しさ、そして悲しさは加速していき、その度にダーツで決めた歪んだ関係性のセックスフレンドを自らの体調に構わず「城」に呼び出す毎日。

数少ない正常な日常は美大アトリエでの敗北を感じながらの製作と、アルバイト先での交わらないセフレ抱え仲間である演劇派クズ男とのどうしようもない雑談。

彼女は対外的評価とは全く異なり、巨大な自己否定と孤独に殺されそうになる心細い生活を送る自分を大切に扱おうとも思えない、そして誰の唯一にもなることの出来ない人物でした。

しかしある日、彼女がアルバイトにより取り損ねた単位の補填課題をこなすため海外へと向かった時、飛行機で隣り合っただけの男・霧帆と偶然に会話を交わし今まで感じたことのない夢のような恋愛感情を持ってしまいます


そしてそれまで彼女の周囲にいた男性は、自分の誰かの互換品として扱うような者ばかりであったことに納得しながらも静かな恐怖を抱きます。

了承の上とはいえ彼らのほとんどには既に彼女がおり、少なくとも誰一人として彼女を一心に見据える者は存在していなかったのですから。

自らを人魚に見立て一般人を別世界の人であると扱いながら、彼女は予測される寿命を恐れ陸地へのあこがれ、一般的な普通の恋愛へのあこがれを抱いてしまいます。

もし自分かもうすぐ死んでしまうとして美術作品もぱっとせず、自分を強く求める者もいない中で私はこの世に何も遺せずにいなくなっちゃうの?

家系に伝わるジンクスが真実であるならば、ナジュにとっての人生はあと一年の猶予しか残されていません。

私に今から人生の在り方を変えることなんてできるんだろうか。

最早入学当初ほどの夢も情熱も無くして、まだやり直せるのだろうか。

落ちこぼれの大人になりきれない美大生は悩み、もがきます。

果たして彼女に未来は訪れるのでしょうか。

彼女は陸に上がり、人間になることは叶うのでしょうか。


なんというか、本当に一人のこじらせた女子大生の世界ですべてが完結する小説です。

二十歳で全てが終わってしまうだなんてジンクスは、別に作中では細かい描写を伴わないために単にナジュのある種の強迫観念か妄想ではないかと思わせるほどぼんやりとしています。

それでも若干の異常は感じられるほどに彼女の一家の女は二十で倒れてしまっているのですが。

ライチ☆光クラブが聞いたら卒倒しそうなことばかりだなって思いました。

一番美しいまま終われるなら私もその方がいいんだけど。

あと美大がテーマであるために、日常のパートとしてアトリエのシーンが多く登場しますがその中の「壊れ方が足りない」から君には作品への成果が表れない、という表現は若干でも美術をかじるものとしてはわだかまりのようなものを感じました。

作者が述べたかった表現としては、感情の爆発やあか抜けた感触を指示していたのかもしれませんがこの性と愛を強く語る小説において美術の学習として壊れることを勧めるのは、ちょっとどうなんだろうなと思いました。

いや……こういう意見が「恋愛小説にマジレス乙」の可能性は非常に強いですけれどね。

感情論や愛でどうにかなる美術はあまり私の好むものではないし、せめて真摯に技術を磨くシーンぐらい挟んでくれればよかったのにと思ってしまいます。

ただ作品内に登場する具体的なブランド名やアーティストから、作者の美意識の高さはうかがえるなと感じました。

読んでるうちはまあ楽しいけれど、結末が無理やりにも感じられる良くも悪くもふわっとしたスナックな小説です。

私には腑に落ちないけれど、主人公が幸せならまあそれでもいいですけどね…。

これはそんな小説でした。

人都でした。

2020年10月21日水曜日

21、レヴォリューションNo.3

 こんちは人都です。

レヴォリューションNo.3 金城 一紀 https://www.amazon.co.jp/dp/406210783X/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_V8eKFbSBKETPK

今日の本は昨日言っていた、図書館のリサイクル本要するに廃棄救済の無料配布コーナーでいただいてきた内の一冊です。

最近というのも主語の大きさで怒られてしまいそうですが、私は基本的に時勢の流れに逆らうような中身の内容をほとんど理解できないようなシンプルなタイトルをつけている作品が好きです。

表紙の目力と引力、表紙買いに近しい選び方をした一冊ですね。

この本はある青春少年の一団を取り上げた、2001年出版のカジュアルな小説で表題作の「レヴォリューションNo.3」、それから少し後の物語「ラン、ボーイズ、ラン」、そして最終章である「異教徒たちの踊り」の三編で構成されています。

90年代の最終期の質感を湛えた、暴力と初々しいスケベ心や大人への反抗を糧に行動する最高にばかばかしくも羨ましい少年らの青春小説です。


主人公である語り部の「僕」は、新宿区の落ちこぼれた不良ばかりがたむろする男子校に通学する家庭崩壊経験者であり、独特で一方的な失恋も経験した周囲よりは若干賢い高校生です。

それでも彼の通う周辺の学校はといえば偏差値が高い学校であったり、お嬢様の集まることで有名な女子高があったりと推測に難くない明確な要因から、彼らの学び舎は周囲の学生から眉を寄せるような存在として悪名高く認知されていました。

その認知は実際間違ってはいません、言ってしまえばそこは絵にかいたようなFランのバカ高校でした。

ガラの非常に悪い生徒や生傷やセンシティブな問題を抱えた学生が最後に落ちるような高校であることは実際に事実でありましたし、若気の至りともいえる後先を顧みない問題行為についても学校全体でしょっちゅう耳にするような土地柄がそこには存在していました。

大学の進学率もあり得ないほど低いような、とても学び舎とは言いにくい治安半壊の高校です。

そんなある日、「僕」が受講していた生物の教師が急に脈絡もなくこんなことを言い出したのです。

「君たち、世界を変えてみたくはないか?」

その瞬間にほとんど崩壊していたクラスの視線と意思は、その発言の意図に惹きつけられました。

大人らしくないことを話す生物教師「ドクター・モロー」は続けます。


君たちは生まれつき勉強が苦手なようにできていてここにいるのかもしれない。

このクラスの親にどこかの名門の大学を出た者はいるか?いないようだね。

つまりはそういうことだ、勉強が苦手な親から遺伝して君たちは生まれたんだ。

ただ、この状況を打破することが出来る一つの行動がある。

それは「勉強が得意な女の遺伝子を獲得すること」だ。

要するに秀才の女を恋に落とし、あわよくば番となり子を産ませればそこから何らかの道は開かれるかもしれない!


おおよそ教師が語るべきではない内容に、年頃の愛と性に飢えた不良たちは沸き上がります。

彼らが恋を為すためには当然女子高生にアプローチを仕掛けるべきです。

しかしながら周辺の名門女子高はリスク回避のため防御が非常に固く、一人で特攻を仕掛けたところで追い返されるのが当然といったところでしょう。

ですから、彼らは徒党「ザ・ゾンビーズ」を結成し三年もの歳月をかけて、この女子高にカチコんで賢い女の子とお近づきになるために拙くも懸命な努力を行うことを決心しました。

バカだと思うでしょう?ですけれど、青年らは誠にまっとうに荒唐無稽な信念を貫こうと奮闘することを止めようとはしないのです。

標的は学園祭、騒ぎを起こしてでも暴力で語ろうともとにかく彼ら「ザ・ゾンビーズ」の信念はばかばかしくも不純で純粋です。

いや、もしかしたら本当はカレカノなんかよりもこの困難と大人に向かって徒党を組んで反逆する生臭くて汚い感触が、一番青年の拠り所だったのかもしれない。

「ギョウザ大好き!」と叫びながら集団で女子高の門に突入しナンパに命を懸ける様相は、最高にアホらしく一周回って読者の心をもなぜかつかみます。

バカで何も考えられないような青年たちに淡々と迫る危害や確証の取れない揺らぎ、欠けて戻らない者と本当に実在した全くかっこよくない死の質感と人種の差別、そして卒業後の未来……。

それでも彼らは走ります、悩み考えながらもまずそのこぶしを振り上げ前へと進みます。

金にスケベにそれっぽい知識に暴力に犯罪に、そして夢に。


もうね、これまた非常に治安が悪い小説です。

だけれどこの小説は何故だかそのひとつひとつは実にさらりとしていてグロテスクな胃もたれは引き起こさないんです。

よく調べたらこれは直木賞作家の作品らしいですね。

そしてこの本にはいくつかの続刊が出ているそうで。

しばらくいわゆる「著者読み」のようなことをしていないせいで、私はあまり作家の名前には詳しくない口です。

できれば青春の頃に出会いたかった本ですね、弟に読んでほしいかと言うと迷ってしまいますけれど。

うっかり真面目に十代を済ませた者にとって、若気の至りという奴にはとてもあこがれを抱いている節があるのです。

もちろんこんな危ない人たちが現実にいたとしたら当然かかわりたくもありませんが、創作物の良いところはそういう架空の理想を追体験できることだと思っています。

こんなにばかばかしくて信念も訳が分からないのに、確かに読者を惹きつけてその上で生きることを考えさせられる。

これはそんな小説でした。

とてもおすすめです!

人都でした。



2020年10月20日火曜日

20、氷の華

 こんちは人都です。

氷の華 (幻冬舎文庫) 天野 節子 https://www.amazon.co.jp/dp/4344411552/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_uwWJFb9TJA7YM

やっとね!久々に新規小説を読めました、タスクがバカ!

ちょっと前にも話していた気はしますが久しぶりに正統派な、というか警察がちゃんと仕事をする小説が読みたくなりちゃんとあらすじを確認したうえでこの本を手に取りました。

正統派長編ミステリーは健康に良い。

必要以上に性的が出てこないのが良いですね、嫌いという程ではないのですが個人的には女性の艶めかしさとミステリは違う頭を使っている気分になってしまうので。

しかし本当にこれはいいミステリーです、序盤の意味不明を全てパズルのように回収する。

確かに正統派すぎて内容が突出はしないんだけど、最近は突出したものばかり読んでいたもので、謎解きに暴力が絡まないの偉いな……。

斬新なトリックよりも散りばめられた物証を追い続ける刑事がこれまたいい。

主人公を取り巻く環境や小道具が何となく優雅なのも、事件とのコントラストでより良い。

本当に古き良きサスペンスドラマ。

ちなみになぜか手に取るミステリーの多くは実写化されているのですが、これも存じ上げておりません。


この作品の主人公は裕福な一軒家にて子供を持たず、家事も家政婦に委託し適度に夫を愛しなが自らの美貌にも気を遣うゆったりとした上流階級的専業主婦の恭子です。

子供を持たず、といっても彼女は決して自らが望みそのような家庭に至ったわけではなく先天的な不妊体質、そしてそれらを乗り越えるための治療に長年失敗してきたという経緯がありました。

そのような挫折を抱えながらも、彼女は非常に自信家かつ自分を肯定的に捉える傾向が非常に強い…セレブマダムなりのプライドを抱えていたものですから、これが自らの選んだ先進的なライフスタイルであるというように主張するようになり、それどころか「一般家庭」については若干見下すような視線を送りながら淡々とした生活を送っていました。

しかしながら、裏返してしまえばそれは恭子にとって一番のコンプレックスであり恥であり、弱点でもありました。

どれだけの費用をかけても子供を作ることが出来ない、養子すら組めず恐らく今後一切母としてふるまう日は来ないのだろう、そして家事らしい家事はほとんどを家政婦に委託しているために確かに生活は悠々自適だが、それは世間一般の妻の役割を果たせているといっていいのだろうか。

そんなわだかまりもあり、恭子は仕事を持ち自立していたり子供の話ばかりをする輝くような女性のことをあまり好んではいませんでした。

そんな痛々しいな傷口は、突然の受話器が殴りつけられます。

私はあなたの夫の不倫相手だ。夫は私の子を妊娠している。ビール用のコップを用意することしかできないあなたよりもずっと妻らしいでしょ?あなたと私は他人だけど、私とあなたの夫は他人じゃない。だから海外赴任から帰った夫はあなたに離婚を切り出す予定。いい気味ね。

聴いたことのないけだるく生意気な女の声は、大体そんなような内容を電話越しに恭子に伝えたのです。

そのことを証明するように嘲笑する女が伝えた場には、確かに夫のサインの入った母子手帳が存在していました。

恭子は慟哭します、どんなに治療を重ねても子供を産めないという、ごくわずかな人間しか知りえないコンプレックスで精神を切り裂かれ、電話先の彼女は持っていないものを全て満たしたうえで、夫まで連れ去るようなことを予告してくるのですから。

そして彼女は不倫相手をほとんど衝動のままに殺害します。

使用したのは庭の整備に活用するための農薬で、衝動かつ理性的に彼女なりの完全犯罪を夫が帰宅する前に、アリバイと共にすべてを時刻通りの恐ろしいスピードで仕立て上げました。


そして事件は認知され、犯人は不明であるとの情報と共に報道も行われるようになったある時、恭子は気づきます。

いくら経っても、不倫先の女が妊娠していたなんて情報は流れてこないのです。

そういえば、なぜかあの電話先の女はご丁寧に母子手帳を入れた封筒に住所まで書き込んでいたが、そんなことを普通するだろうか。

もしや、自分が騙されていて全く関係のない女を手にかけてしまったのだとしたら?

そう考えを巡らせた彼女は段々と身に迫る警察を撒きながら、真の電話口の人物を知る手立てはないかと行動を始めます。


あらすじが長くなってしまいましたが、本当にこのミステリーの正統派感はがっしりとしていて素晴らしいです。

ミステリーの内容をこれ以上語りすぎるのはまずいのでこのあたりで終わります。

人都でした。


2020年10月19日月曜日

19、毎日こむぎねんど

 こんちは人都です。

毎日こむぎねんど しばたたかひろ https://www.amazon.co.jp/dp/4837310672/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_vPAJFbP1AA23Y
今日は久々に調べ物をする必要に駆られ、図書館に行っていました。
結局相当狭い分野だったので、あまり得たい情報は得られなかったんですけれどね。
ただまあ何となく興味のある本を五冊借りて、あとリサイクル本として無料配布されていた本をまた五冊いただいきました。
本棚がどんどん限界になっていきます。
そのうち読んでここに書いていきたいですね。

今回は評論でも物語でもない手芸作品集の話をします。
この本の著者であるしばたたかひろさんはTwitterでも精力的に活動をされているアニメーションや造形を得意とする作家さんです。
彼の造形の特徴は、その緻密な観察眼はもちろんのことその日常に異常に密着したモチーフを題材としているところです。
それもまるで物質が原型を失ったり物としての役目を終えたようなそんな時を閉じ込めたレプリカは、一瞬の困惑と共にじわじわとこみ上げる感情を人に抱かせます。
例えば、「表面のチョコからなくなるアイス」からはじまり「もうじき溶けきるバブ」や「皿からはがれなくなったスライスチーズ」「乾燥した冷えピタ」「歯槽膿漏」「カラオケBOXの椅子を雑に補修しているビニールテープ」「なんかケーブルテレビで見まくった虹色画材」「ちょっと嫌な感じになった絆創膏」「先っぽをガシガシしたアイスの棒」「焼きすぎた牛タン」「カレーを洗ったスポンジ」など。
正直に言ってしまうのであれば、その緻密に作成された作品のほとんどが生活の中の残り物やゴミ、クズに該当するものです。
しかしながらその全てが本当に真摯に、そして見まがうほどの再現度で現実に新たな被造物として作品化されています。
確かに認識の中に存在はしていて、身に覚えもあるけれどあまりにも醜くて、正直汚いとまで判断することがあるほど気にも留めようがない。
すべてがダサいもしくは一瞬で失われそうな本当にちみっちゃい題材なのになぜか真摯に作られすぎているせいか目が離せなくなる。

私がこの本を買ったのはそれこそ、このしばたたかひろさんの個展が行われていた会場で本当にふらりと大学帰りに立ち寄ったのですがその指先程の作品に一瞬に目を奪われこの本を個展の売店で購入しました。
私は元々趣味で粘土細工を嗜んでいますが、樹脂粘土でも軽量粘土でもなく非常にシンプルな小麦粘土で造形を行なっているというのも普通なかなかマネできたものではありません。
本当に百ページ近くがすべてこの小さい宇宙で満ちています。

おすすめです。
人都トトでした。

2020年10月18日日曜日

18、大魔法峠

 こんちは人都です。

大魔法峠 (角川コミックス・エース) 大和田 秀樹 https://www.amazon.co.jp/dp/B0093G9EVS/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_vVfJFbXAXNZ5P

表紙がいいよね!違う商品陳列罪で怒られなさいよ。

何事にも源流というやつは存在しますが、それについてを中途半端な知識で言ってしまえば更なる知識人に首ごと叩き落とされるというのはジャパニーズインターネットカルチャーのあるあるだと私は経験より思っています。

ですから、まあこれが暴力系マジカルの源流かといっていいかは私にも断言できかねます。

ただし、自分の背後で国会議事堂を燃やして舞い踊るマジカルガールの初代はきっと彼女でしょう。

破壊的な魔法少女はもうまじでたくさん出回っていますが(マジカルファシズムも認知してるよ、美少女魔法少女恐竜天使戦士も分かるよ)、破壊的「魔女っ子」の中では間違いなくトップクラスです。

あとたまに意地悪な人が魔法少女詳しいの?じゃあこれは?みたいな感じで大魔法峠とかドクロちゃんを提示してくるんですよね、履修も単位も取ってるわよ。


この物語の主人公は、赤い目玉のリボンがかわいい異界支配者候補の田中ぷにえちゃんです。

彼女は一年間女王試験として天空から人間界に降りて試練を受けることとなり日本の学校に入学するのですが、その先で多くの一般人の注目を一瞬で集め一躍アイドル転校生として学園での立ち位置を確立します。

しかしながらそんな彼女のスタイルに良い印象を抱かないアウトローな女子生徒も確かに存在していました。

ただし、その不良生徒の彼女への印象はある意味では正しい危機意識の持ち方であったという事が出来るでしょう。

なぜなら彼女のキュートフェイスの裏側には、叩きこみの帝王学と人を使うものとして扱うための真っ黒な戦略、ついでに完全に自分以外のほとんどを蔑むようなド尖りな思想が蠢いているのですから!

ですからそんなぷにえちゃん、一般人のただの女に暴力を振るわれそうになったところで舞って歌って呪文を唱えればたちまちどんな(身辺)事件も解決。

リリカル・トカレフ・キルゼムオール!

だからぷにえちゃんを本当に怒らせたりなんかしたらいけません。

魔法で事が済むならいいのですが、彼女の一番恐ろしい魅力はそのキャワな肉体に秘められているのですから。

自らの身がかわいいなら肉体言語を彼女に絶対に使わせてはいけません。

絶対に!


読むギャグ全部キャラクターの損壊がリセットされる奴ばっかりだなお前。

あれなんですよ、女の子がかわいいのと同じくらい暴力の描き方が上手い、あと言葉回しも面白くて声に出して読みたくなる、くそっぷにえがかわいいのが悪い、ぷにえが悪いんだよ。

関節技なのにコマが映えるんですよ、メチャクチャ痛い、ほぼプロレス。

あくまで暴力魔法少女ではなくて、暴力魔女っ子なんですよ。

魔法の世界から不思議な女の子が試練のために降りてくるとか、こんな内容ながらちゃんと呪文詠唱をしたりなぜか謎の歌詞が混入して急に歌うよ状態になったり。

全部強い女(物理)、涙も刃、笑顔も毒物。

ムダズモの作者さんの作品なのはだいぶ後になって知りましたね。

確かにやけに戦争とか武装ネタが出てくるんですよね、ぷにえちゃんが強すぎて作品内パワーが壊れているのもありますけど……。

私は鉄オタで芋な鉄子ちゃんがかわいくて好きです、強力な女の隣に非力な女がいる構図はいくらあってもいい。

可愛さのギャップのダークバイオレンス権力ギャグがすごくスパイシー、愛と希望と自分のかわいさを完全に理解して武器として活用する悪少女。


魔法少女最終フォーム抜き最強トークをするときは、いつもこの女が負けるプランが見えません。

ああ時間が足りないので終わります。

おすすめです。

人都でした。



2020年10月17日土曜日

17、ポリタン

 こんちは人都です。

今日も漫画の話をします。

でも明日からまた新しく小説を掘っていけそうな予定なので、ここで漫画紹介は恐らくひと段落です。

ポリタン (ジェッツコミックス) とり みき https://www.amazon.co.jp/dp/4592130723/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_mAWIFbJM0NKY7

なんだこの漫画!?それがポリタンです。


あらすじはたぶん刑事ドラマのパロディを主軸とした捜査員の男たちと新人の女が織りなすド不条理ギャグ漫画です。

それ以外分からない……なんならポピーザぱフォーマーの方が理解ができる……。

なんでこの本を持っているかといえば、神保町で200円で売り叩かれていたからですね。


がっしりとした劇画調かと思えばマカロニほうれん荘とかがきデカ系のふにゃっとしたディフォルメになり、しかし油断すると特に何の意味もなく流血沙汰のシーンが挟まれて読者が置いてけぼりになります。

ただやけに挟まる銃のシーンはすごいこだわられている気がしましたね。

あれです、アニメポプテピピックをそのまま漫画にしたかのようにオマージュと怒られそうなニッチなパロディの種を死にギャグ爆発オチにじゃんじゃこ混ぜ込んでいる中辛うじて共通のキャラクターと警察という舞台で首の皮一枚を繋いでいるような奇書。

3コマに1コマはツッコミの無いボケの挟まる何らかの地獄でテンポが良すぎてペースを持っていかれる感触。

どメタに「一定のコマ毎に面白いギャグを続けないと警察署が爆発する」って展開、何?

私は元から不条理ギャグとか一昔前のくだらない(褒め)漫画を好んで読むので、まあ耐性はあるのですがそれでもギリギリ振り落とされずに済んだような状態です。

出オチボケのオーバードーズ、ナイアガラ、人によっては多分耐えられないやつ。


「ポポポポポポ ポリタン

ポリタン

ポリタン

ポポポポ ポリタン ポポ ポリタン

ジャン♬」(原文ママ)


いやポリタンって何。

そしてこんな内容なのに、荒唐無稽なのに最終回が終わったサーカスの虚しさを理性で描けてしまうの、すごいずるいです。

そんな本です。

おすすめ……おすすめ……?自己責任で……。

人都でした。



2020年10月16日金曜日

16、華托捜索


 こんちは、人都です。


華託捜索 | かがりび支店 https://kgrbshop.booth.pm/items/1835257 


あのですね、明日試験なんすよ。

ITパスポートの、一回落ちたやつ!

巷のTLで「ITパスポート落とすやつおるん?w」みたいな呟きをしていたお前!アカウントは控えてないけど地味に引き摺ってるんだからな!バカ!バカは私!英検3級に3回は落ちている私を舐めるな!笑え!

ということで今日のブログはほとんど書く気はありませんでした。

ただ、ここまで何とかして日刊を頑張れてきたのでテストを理由にして絶やすのはもったいない気がして……いやでも今日は書くのに十分も使いたくない、でも本に対してそんな雑な扱いするのはちょっと……という感じで、やめるにやめれず誰でも雑に扱っても良いとされる自分の同人誌の話をちょっとだけして今日は終わります。


簡単に言ってしまうと、石榴倶楽部と萌里菻ちゃんをめちゃくちゃに描きたかったけど原作(?)を踏襲していきたくて懸命にやわ頭で考えて、「SCP-170-JPのあの女の子が石榴倶楽部に向かわず、萌里菻によって関与を止められていたらどうなってたと思う?」みたいな物語を描こうとしました。

あとねぇ、収デンというリアイベの場で石榴倶楽部をダイレクトマーケティングしたかったんですよ……マジでSCPなんもわからんけど石榴倶楽部だけアホみたいに語れるから……。

ここは石榴倶楽部のチュートリアルのつもりで描いてたページです。

どうしてもモノローグに頼ったり、説明を長ったらしくしたくなくてすごい台詞打ちに悩んだ記憶が。

ちなみにこの漫画は、私が初めてまともにトーンを貼った作品でかつおもちゃじゃないペンタブとクリスタを買って4ヶ月ぐらいで描いた、もう地獄の様にデジタルの機能がまずわからない中で刷った本です。

どれぐらい地獄だったかというと、漫画の原稿用紙の使い方をわかってなくて印刷会社さんに3回ぐらいNG貰いながら「自己責任なんでもう本になればいいんで無視して割増課金で刷ってください…」とマジ泣き電話を入れるぐらい地獄でした、漫画難しすぎる。

ただまぁ思い入れはありますよ、すごく。

何せSCP-170-JPの作者さんである遠野さんにDMで凸らせていただきまして、記事について質問させていただいた上でネーム練らせていただいたんですよ。

だからデジタル執筆の漫画としてはめちゃくちゃ見苦しい上に絵が見てて辛いにも関わらず、ストーリー自体は今でもかなり好きだったりします。

あとタイトルも好き、売ってた時にちゃんと「かたくそうさく」って読んで買ってもらえたときよっしゃ!と思いました。


実は今も月末の魔法少女オンリーに出すための漫画を描いているのですが、一通りの機能がわかって描く漫画はかなりスムーズです、原稿の進みは修羅のそれですけれど…。

もし気になる方がいらっしゃいましたら華托捜索の方、URL先のboothにてお取り扱いがありますので(在庫…)手に取っていただけたら、私と私の懐が喜びます。

最近北斗の拳15巻セット買ってしまったんですよね、どこに置こう。

それじゃあもう終わりです、あーあ明日こそ受からなきゃまずいよ…。





人都でした。


2020年10月15日木曜日

15、ライチ☆光クラブ

 こんちは人都です。

ライチ ラライチ ララライチ

ライチ☆光クラブ 古屋 兎丸 https://www.amazon.co.jp/dp/B00G2678D8/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_UifIFb1YCJRZ4

ライチ光クラブは最高ですよそれは……描かれる全てが過激。

最高のグランギニョル、耽美残虐劇です。


物語の舞台は近代の急激な発展により工場の排気と老いた大人の虚無感に包まれた町、螢光町。

そしてその一画の廃工場に年頃のまだ大人ではない少年たちによる、ある信念を掲げた結社「ライチ光クラブ」が存在しました。

それはまるでナチズムのように統率を執る圧倒的な頂点が存在し、若い肉体を包む学生服をまるで軍服かと見違えるほどに冷徹で、それでいて赤子のように欲望に忠実で虫を潰すのも人を解剖するのも彼らにはほとんど等しく、自らの曖昧な存在をコードネームで規定する少年たちのあまりにも異質で異常な集団です。

彼らには部外者にどんな犠牲を払わせてでも叶えたい、いや叶えなくてはならない一つの崇高かつ未踏の機密がありました。

それはクラブにおいて永久の美の象徴として偶像役を務めさせるために、美しい少女を攫わせる力を有する、肉を持たず醜悪ではない無機を主体とした手先とする為のロボットを作り上げるという計画です。

人間は年を経れば経るほどに醜悪な容姿を晒し、その癖美しくあろうと足掻くものの結局薄皮の下には等しく臓物が蠢く生命であると彼らは思考していました。

そして彼らは、自らはその限りではないと、成長や老化には抗うことが出来るのだと妙な純粋さでそれでも

確かに信じていました。

そして、その少年らの技術と思想によって形成されたロボットは楊貴妃が愛した永遠の美の象徴である「ライチ」の名を冠し、それらを燃料として起動ナンバーの「666」と共に自らの自我に目覚めます。


まず前もって書いたように、この漫画は過激の全てを内包しています。

内臓を伴うゴア描写に性的暴力、政治思想、危ういオカルトと同性愛者に徹底された美しすぎる中学二年生じみた思想の病、大人になりたくないと藻掻きながら仲間を蹴落としあい裏切り壊れていく醜さ、誰かを妄信することで一時の不安を喜びで誤魔化す子供たち。

これぞダークサブカル!という美しくも破滅的で子供らしさにしがみ付く破滅的な自滅。

なのに、読後感はあれだけの情報のカロリーと猟奇的な鉄の匂いの紙面を持ちながらなぜか物悲しく空虚でやり切れない気持ちになってしまうのです。

あと私はライチというキャラクターが本当に大好きです、もしかしたら誰よりも人間らしい人間ではない存在を好むのはここから始まったかもしれません。

耽美で美しい少年の中で異質な無機であり、時折挟まれるモニター越しのドットのような表現や回路のコマも痛く好んでいます。

一番かわいそうなロボット。

読んでいてすごく苦しくなる、カノン……。


誰もが哀れで美しく、けれど確かに信念はあり真暗の中にもがき苦しみ落ちていく。

これはそんなアングラ十代のバイブルになった漫画でした。

……でも、ちょっと大っぴらに人には勧めづらいかな……内容が内容……。


人都でした。


2020年10月14日水曜日

14、番外 女の子のためのクチコミ&投稿マガジン

 こんちは人都です。

体調が微妙で、少し寝て起きたら既に23時を回っていました。

ほんとなら今日はバイブルであるライチ☆光クラブの話をしようとしたのですが、あまりにも深夜なので(いつもは22時に書いて読み直して出している)簡単な雑誌の思い出話でもしようと思います。

女の子のためのクチコミ&投稿マガジン」って雑誌をご存じですか?

学研から2016年まで隔月で学研から出版されていた、アニメージュとかの後ろについてくるお便りのコーナーが内容の8割を占めるような内容の女オタク向けの雑誌です。

表紙には名だたる女性向けのイラストレーターや何度も掲載され名の知れた大型投稿者によるイケメンが視線を向け、独特なショッキングピンクが書籍全体のテーマカラーとなっています。


私が初めてクチコミを手に取ったのは七年前、中学一年の頃だったでしょうか。

私は中高一貫の女子校で六年間文学部に所属していましたが、最初の三年間だけはイラスト関係の部活にも所属していました。

私がその頃に好きだった版権物は恐らくその頃からメインはまどかだったはずなのですが、それ以外にもカゲロウプロジェクトや北斗の拳、モンスターズユニバーシティとかダンガンロンパなどのコンテンツもとても愛好していました、あとMSSPの手書きMADをすごい見ていたような、ヘタリアも!

そんなただでさえ混沌とした好きジャンルを更に増やしていったのが、部活の先輩ににつられ購読を始めたこのクチコミという雑誌でした。

女の子のための、と銘打たれたように内容は乙女ゲームやボーイズラブが公式で特集されているのが特徴です。

ホモォ……なんて今ならLGBTにぶっ飛ばされそうな用語が大流行したのもこの頃ですね。

これはもう、今読んでも驚いてしまうのですが本当に投稿者たちが形成していく雑誌でしてはがきサイズに指定されたイラストにそれはもうめいめいの推しと好きジャンルの二次創作を押し込んでそれがずらりと雑誌の紙面を飾る……という学研は良くそんなことが出来たな!?という日本全国の女オタクの情念を元気玉かのように集めたとんでもない熱量の雑誌でした。


どれだけすごかったって、投稿者メインの雑誌でオールジャンル対象のカップリングランキング投票企画(!?)を行ない、受け攻めの逆カプ同士が2TOPを飾るみたいなそれは本当に界隈的に大丈夫だったんですか?と問いたくなるような本当に女オタクにすべてのオールを任せているような雑誌でした。

あと投稿者のオタクな日常を四コマ化して投稿できるコーナーもあり、一人じゃないんだなぁとしみじみ読みふけっていたものです、ちょっとしたTwitter風コーナーですね

同人のラミカや便箋の通販を仲介されているコーナーもあったのは今ではなかなか考えにくいですよね、あれだって普通に住所と本名を本誌で明かす仕様でしたから。

なんなら回によっては普通にBL化された二次創作が掲載されているアニメの公式最新情報だったり描きおろしも掲載されていましたからね、今考えると怖すぎませんか?

刃物とか送られなかったのかな……。


手に取った2013年当時、まあPIXIVもないことはないけれども影は薄くまた年齢のこともあってSNSを規制されてもいたので中学生の私にとってはそれが隔月の出版であったとしても女オタクのトレンドを知る唯一の手段でしたね。

あと、確か記憶では黒子のバスケやマギ等が覇権を取る中で自分の好むマイナージャンルが掲載されているかどうか、なんていうのも購読を続ける要因の一つになっていました

どんなイラストにも掲載されれば編集側からのちょっとしたコメントが付く仕様にも愛がありましたね。

どれぐらいかというと、トランスフォーマー関連の投稿に付箋をつけていたぐらい。

また私は長らくパソコンで絵を描く環境が無かったために、コピック一筋で通していたのですがこの雑誌は有名投稿者によるイラストメイキングであったり画材紹介のコーナーにも富んでいて、その点でも私は非常にお世話になった雑誌です。

いまだに追いかけているイラストレーターさんもたくさんいますね。

私も一度トランスフォーマーアドベンチャーの投稿をした?してない?どっちかは思い出せませんがまあ拙いながらも頑張ろうとした痕跡はあるようです、載らなかったですがね。

だんだん時代が移り変わって、二次創作者がネット上である種のコンテンツ発信者になることが普通になっていっていつの間にかクチコミは廃刊となってしまいました。

しかしながら、私にとってそのピンクの雑誌は決して捨てることの出来ない宝となりましたし実際にはじめて同人イベントにサークル参加した時にも、クチコミに特集されていたそれこそ本当の同人活動を行う上での「クチコミ」や守るべきルールについて学ぶ一種の教本となりました。

そんな思い出の話でした。

人都でした。


2020年10月13日火曜日

13、ポピーザぱフォーマー

 こんちは人都です。

今日も漫画の話をして優勝していくことにするわね。
POPEE THE PERFORMER 増田龍治 作 増田若子 絵 https://www.amazon.co.jp/dp/4835452046/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_j9AHFbZPGJC0K

はじめにポピーザぱフォーマーを検索してはいけない言葉呼ばわりしたのは誰なんだろう。

そう、これはあの大昔のチェーンソーでケモノに八つ当たりするウサギピエロで有名なキッズステーション放映ノンボイス3Dアニメ漫画版です。

インターネットのアングラを漁れば漁るほどオタクサークルで勇者になれる時期っていうのはまあ実在していたのですが、ウクライナなんちゃらやグリーンお姉ちゃらあたりの本当にやめた方がいいものに紛れて、例えばイキグサレとかぶりっこテクノみたいな病みつきになる本当に良いものに出会えた場でもありました。

OPは私のカラオケの十八番です。

本当にこれ以降ずっと増田監督作品を追っています、どこかでハートにぐっさり刺さってしまった。

次点で好きなのはファニーペッツ。

今このブログを書くためにAmazonからアドレスを引っ張り出したのですが、またびっくりするぐらい高騰してますね。

私が持っているものは、この作品がが復刊される前にそれこそ3万やら5万やら10万やらで本気の超プレミアとなっていた状態の下で増田監督の作品ファンらが復刊ドットコムに熱烈なラブコールを送り続けこじつけた十五周年記念の2015年復刊版です。


主人公のポピーは一人前の道化俳優「クラウン」を目指す17歳で、顔に中国の変面の如くころころと表情の変わる面をつけた正体不明出自不詳なオオカミの男の子・ケダモノと共に曲芸やサーカスの出し物の練習をしています。

だけれど、いつも決まって芸事の容量が良いのはだいたい幼いケダモノの方。

それがポピーには面白くありません、なんたって誰よりも巨大な自尊心といつだって誰にだって勝っていたいと思うようなとんがった思想ををウサギのきぐるみにそのまま閉じ込めたみたいな無茶苦茶な論理の人物なんですから!

そこにゾウにカエルに自称父親の完全変態不審人物・パピィも加わりながら混沌のヴォルフ・サーカス団は砂漠の真ん中で今日も理不尽を演じます。

「ケダモノの顔は……」


まさか今になって理解が来いで著名なポピーザぱフォーマーの冷静なあらすじを書くことになるとは思ってもいませんでしたが、いわゆる少しバイオレンスだけど次の話では何事も無くなっているタイプのコミカルでスナックなブラックコメディーギャグ漫画です。

全編七割分からないけど、実際面白い。

作品を語るときに別の作品を持ち出すのはナンセンスではありますが、あえて出すならハッピーツリーフレンズと平行線で語られることが私のオタクサークルでは多かったような。

この漫画の内容はほぼ全編が監督の妻である増田若子さんによるイラストで描き下ろされており、アニメのバージョンよりバイオレンス感がなめらかで絵柄もかわいく、また時折その話限りの名の無い露出多めな女の子モブが少女漫画チックに混入しています。

ちなみにモブ女は割と吹き出しで喋りますが原典ポピぱキャラはほとんどまともに話しません、ノンボイスで徹底されていることに当時びっくりした……そのかわりBGMが高確率で幻聴します。

まあポピぱであることに変わりないのでおおかたいつも通りシュールに死ぬんですけど。

ポップでキュートな人命軽視短編がたくさん詰められていますよ、なんなら放送コードの概念が飛んでいるのでアニメ化はやめておいてほしい表現はエレクトロニカルパレードしています。

あと巻末には監督と若子さんのインタビュー記事も掲載されていますし、キャラクターデザインの没案やお蔵入りしたポピーの妹・マリファちゃん、ポピーのウサギ服の下のイラストもありますよ。

まさに88ページに渡るド濃厚なポピぱ書籍完全保存の決定版。

きみも夜中にカバーを外して恐怖しよう!

いや、簡単に人に勧められない値段になっちゃってますけど。


ああ、ちなみに最近になってこの作画担当の増田若子さんはTwitterを始められまして、なんとポピぱを含めた増田龍治作品の現代日本風味学パロイラストをよくネットに上げられるようになりました。

何言ってるかわからない?わたしもよくわからない。

ただ自主製作二次創作と知っていてもn年間公式供給が無かった中で突然この事実を知ってシンプルに混乱したままオタクは拝みました。

もしご興味のある方は、なんだか直リンを貼るのは気が引けてしまうので増田龍治監督のnoteから「ちんちくりん」という三話に渡る2020年投稿の増田キャラの散文に目を通されることをお勧めします。

うお……って感情になります。

あれはでっけぇ感情よ……。


手に取ってっていうのも難しい本ですけれど、その分間違いなく私の宝の一冊です。

人都でした。


2020年10月12日月曜日

12、ムヒョとロージーの魔法律相談事務所

 こんちは人都です。

今週末は資格試験が控えていて、正直本の新規開拓をしているどころではない感もあるので一週間ほど好きな漫画語りが続きます。
ムヒョとロージーの魔法律相談事務所 文庫版 コミック 全10巻完結セット (集英社文庫―コミック版) 西 義之 https://www.amazon.co.jp/dp/4086189070/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_AWgHFbCH8N94E
ムヒョロジ、愛してるぞ……。

ある世界には死んだはずの魂や生霊が怨念や未練により生者に危害を加える超法規的犯罪が横行していました。
当然ながら六法では裁きようも、まず捕えようもないその目には見えない超常の事件。
そんな戦慄する他に無い霊的困難を解消するのが社会のアングラに存在するのが魔を裁くための法律「魔法律」です。
いわゆる除霊や霊媒、異能力や魔法のいずれとも触れ合うようでズレたそれは、あくまでこの世に未練を残す魔に対してのみ執行される事前に規定されたいくつもの法から成立する断罪と恩赦の技術であり、日常に住まう人々を守るため深い山奥の一定地域と深い知識と技術を持ち合わせる執行者以外には知る由のない術ととして発展を遂げていました。
この作品の主役となるのはそんな魔法律協会の下で最年少で最高位である執行人となった少年・ムヒョと不可思議な因果にてサポート兼家事担当を行うこととなった最低位仮免の青年・ロージーの凸凹コンビです。
彼らが解決する数々の霊的怪事件そしてムヒョの出自にまつわる因縁は恐ろしく、総本山である「魔法律協会」を中心に奔走する生者と闇から未練の手を伸ばす反逆者との相容れない捻じれ曲がった生温かな執着が交錯してゆくこととなります。

西先生の書く世界が最高なんだよな……何が好きって背景の書き込みと唯一無二の筆跡の癖を感じる重量感がいいんだよ、何度も模写した、文庫版の表紙見てると切なくなってくる。
恐怖表現や忍び寄るクリーチャーデザインもなんていうか他とは全然違うというか、どこからこんな作りを思いついてるのかって思うぐらい独特でおぞましくて時に愛嬌もありながら、確かに只ならぬ存在っていうのを維持してる不安定さが良くて、そもそも分かる言語を話さない奴もいる。
「魔法律」っていうありそうでなかった概念をきっちり作りこんで、ファンタジーの魔法と現実の怨憎混じる怪談と霊を本というキーアイテムで閉じこんでいる世界観も最高で、そもそも資格制なんですよね。
なんなら魔法律はあくまで法律的な中立措置なので、もし執行人が調査を怠って霊の刑を見誤ると自分にその誤判断の反動が来たりするなんて設定まであるんですよね、ただの異能じゃない、時には霊の正当判断を部分的に評価して煉獄に流す法もある。
単なるバトルではなく、加害者と被害者とそこに呼ばれる魔法律家という独特な構図もミステリ好きに刺さるんですよね。
そもそもメインの強いのが青年ではなく三頭身ぐらいの見た感じガキですからね、青年はヒロインと見まがうぐらいそういう立ち回りをして途中まで助手と呼ぶのも憚りますよ。
私はリアルタイム勢ではないのですが、この作品とネウロが同時に連載されてたジャンプはなんらかのバグだったんだと思います。

好きなキャラはロージーです、あとパンジャ。
パンジャ……。
パンジャ………。
なんというか、ムヒョロジの良いところはところはどんな脱落キャラにも感情をしっとり、しっかりと持たせてくることなんですよ。
どれぐらいその作りこみが強いかって、簡単な単発エピソードで執行される霊にもきちんとどうしてそんな凶行に及ぶこととなったのかって理由を週刊少年ジャンプの紙面を割いて描写してくるぐらいなんですよね。
最近の十八禁参入ももうね、切れ味が健在。
一話どころか初回の読み切りの時点からモブのこじれた女女感情で少年ジャンプしようとするんですよ、そんなん刺さるしかないけどまじで西先生はニッチに妖刀を投擲してくるみたいなスタイルが大好きだよ。
ムヒョロジに出てくる九割は本当に優しい、その分一割が本当にどうしようもないレベルの邪悪、地獄、クソ性格、許せねえ。

こんなことを書くとまるで自分が異常ですよって刃物をなめるようですが、どうしても好きな作品は強い個性のあるキャラクターが戦いの末に脱落していくものが多いんですよね。
でもただ死んでいくんじゃなくて、その死にざまや生きざまが誰かに受け継がれていくような感情をがっつり書いてくれる群像劇が大好きです。
あんまりこういう事言うと怒られちゃいそうだけど、鬼滅で鬼の生きざまに内臓を撃たれた人は絶対にムヒョロジが刺さると思うの……。
確かに一巻のあたりはストーリー全体を見渡すと若干絵柄が違うのですが、マジでストーリーと人間模様はずば抜けてると思います。

あああもっと書きたいですが、もうじきパソコンの電源が自動オフするのでこのあたりでおわり!
ムヒョロジを読もうな!!!
パンジャを知ってください。

人都でした。




2020年10月11日日曜日

11、きぐるみ防衛隊

こんちは人都です。
バイトとか眼科とかいろいろしてたら今日も長編サスペンスを読み切れなさそうなので好きな漫画の話をします。
きぐるみ防衛隊(1) (KCx) 星野 リリィ https://www.amazon.co.jp/dp/4063644065/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_VQWGFbTARYWK3

私はどちらかといえば少女漫画より少年漫画、少年漫画より美少女アニメみたいな趣向の持ち主であるため、本棚から魔女っ子系を除外するとピュアなラブコミックはほとんどありません。

その中の貴重な非魔女っ子少女漫画の中の一つがこの「きぐるみ防衛隊」です。

いや……少女漫画としてこれを好きって言うとヤバい趣向が漏れるので普通に女友達に話したりしませんけど……。


主人公のリボンのかわいくてちびっこい笹倉はっかちゃんは生徒会のセンパイに胸をときめかせるどこにでもいる普通の十四歳です。

そんな恋に恋するキュートガールであるはっかの元に突然牛のゆるキャラのようなきぐるみのような様相の生物が現れます。

それもご自宅に、前触れなく、バライティのADのようなフリップでコミュニケーションを取ろうとする怪しすぎる巨体の不明生命体。

何故そんな正体不明のきぐるみが突然はっかの日常に現れることとなったのか。

それは学園のカリスマである生徒会長が指揮を執る「この世界を守る戦士」集団として、尽力するための相棒関係を築くためだったのです。

「ほかの世界の悪い人」たちの侵略を防ぐため、生徒会長曰く「ハートがピュアな」はっかと同級生であるのばら、後輩の五月はこのきぐるみのような謎の生命体と急造のバディとして息を合わせて立ち向かわなくてはなりません。

そしてそのきぐるみの本領を120%引き出すためには、相棒としてある行動をする必要があるのでした……。


ええそうですよ!これも一種の戦う女の子コンテンツですよ!

でも女の子は変身しないし、主従バディものだし、なんかいろいろ新しすぎたんですよ、カルチャーショックで。

これ本当になかよし連載作品ですか?となってしまうぐらいのバトルラブエロチックミステリーの全てを鍋に入れて星野リリィ先生作画で出力してくるバケモノ作品ですからね。

作中の専門用語だけでも結構な量があるんですよこれ。

あとマジであんまり言及したくないレベルでかっこいいと思う致命傷の性癖であるオールバックとクッソ塩対応とスーツで肉弾戦を行うの全てを踏んできて、なんかもう死んでしまう、オタクいまだに読むたびに死んでる、何?かっこよすぎる、下手な性的枠より内臓に刺さるからマジでTwitterでもあまり言わない、一冊で一日に摂取していいギャップの摂取量ぶっ壊れる……。

あと絶対生徒会長好きなフォロワーいるんだよな、メチャクチャ顔がいいことが自覚出来てる割とお茶目なようで得体のしれない怖さを抱えた上司存在。


あとキスシーンが全ページきれいすぎて泣いちゃいそうになる。

実は人外が制限付きで人化するという普段口にするとマジで叩かれそうな性癖も抱えているのですが、それはだいたいこの作品のせいです。

イケメンに屈するのほんと慣れてなさ過ぎて、普通にどぎまぎしてしまうんだよバカ。


あと星野リリィ先生はもうほんと最高なので、廻るピングドラムを青春に負っているのでもうね絵を見ると溜息が出ますよ、扉絵天才。

可愛いしか言いたくなくなるが……。


しかしながらこの「きぐるみ防衛隊」、現在においても三巻が最新刊となっている作品です。

なぜって五年前、連載中に星野リリィ先生が産休に入られて作品の続きが未定になってしまわれたんです。

五年、続きを待ってる……成人しても待ってますよ……マジで……。

ぜったい伏線と謎がありえないぐらい張り巡らされてるのだけが分かるんだよ。

一緒にこの作品を三巻まで読んで、続編が来るまでやきもきしてくれませんか?

お願いなのでピンドラに合わせてこの作品も知ってください。

よろしく……人都でした。


2020年10月10日土曜日

10、アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子

こんちは人都です。

今日はいつもより若干薄めの文庫を手に取りました。

アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子 (幻冬舎文庫) 深町 秋生 https://www.amazon.co.jp/dp/4344417062/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_vPCGFbD8TXKZ0

いわゆるアウトローかつハードボイルドな女刑事ものです。

強く理知的な女が性と暴力にまみれた裏社会で暗躍するサスペンスですね。

暴力団やチャイニーズマフィアと手を組みながら、同僚に金を貸して名実違わない貸しを作り誰にも物を言わせないとんでもなく真っ黒なダークヒロイン。

……なんだか最近なんとなくで手に取る小説がどれもこれも強めのセックスと残念な警察ばかりなような……どこかで純ミステリを読みたくなってきた……。

いや暴力が嫌いってわけではないですが、二冊連続でキツめの性的グロものは胃に来る。


警視庁の上野署に籍を置く女刑事、八神瑛子はふとした事件により新聞記者の夫と愛娘を失いました。

その事象の扱いが不明であるにもかかわらず自殺と判定された後、数々の賞与を得るほどの難事件を解決する活動成績を上げながらもそれらの調査を不明な手段によって単独で行う汚れ物の刑事として職務に復帰していました。

そんな中、彼女の担当区域で女子大生の刺殺事件が発生します。

そして伴い似たような容姿、黒髪の美女が次いで遺体で発見され、この事件は関連性があるのかどうかといった点でも捜査班の脳を悩ませます。

そしてその第一の被害者である女子大生の素性が暴力団の組長の一人娘という事が判明すると、瑛子は独断で自らの裏社会の人脈から情報収集を試みますが、その行為を快く思わない所長により彼女は監視下に置かれることとなりました。


しかしながら日常的に闇に片足を置く彼女にとってその程度の視線は糸屑よりも意味のないものであるかのように彼女は着実に暴力団の中心人物をはじめとした犯罪人との情報交換を行い、他の捜査班よりもはるかに素早く事件の核心へと迫っていきます。

時に暴力沙汰に巻き込まれ車に轢かれかけながらも、生身で大の男と戦い拷問と自白強要も手段として厭わない瑛子。

彼女は何故、事件の真相に対して冷徹かつ感情を失ったマシーンかのような単独捜査を行うのでしょうか。


私は何というか、嫌いではないのですか全体的に女刑事である瑛子があまりに「強い女」過ぎて、周りの正しいことをしている警察が若干かわいそうな無能に見えるというか、良くも悪くも治安と倫理の悪い軽めのアクションものスナック小説だと感じました。

この小説は三部作の一巻らしいので、情報が意図的に少なくさせられているのかもしれませんがこちらがハラハラする前に最強女刑事が解決しすぎてしまうのでギリギリな気持ちを期待するのはちょっと違う小説なのかもしれません。

シリーズものらしいので折を見て続きも読んでいこうと思います。

おすすめです。

人都でした。



2020年10月9日金曜日

09、魔法少女育成計画

 こんちは人都です。

今日も予定通りに͡͡コトが進まなかったので、好きな魔法少女語るブログになります。

魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫) 遠藤 浅蜊 https://www.amazon.co.jp/dp/479668039X/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_r8gGFbSPT2XF5

ちなみにアニメももちろん視聴済みです、ドラマCDは未履修だけど短編は全部読んでます。

作者の遠藤浅蜊先生はマジで最高です、続刊も全部収集済みですし八年経った今でも現行の最高マジカルサスペンスシリーズです。


この物語の中心として波乱を巻き起こす原因となったのはある地域で局地的なブームを巻き起こしていた携帯ソーシャルゲーム「魔法少女育成計画」でした。

そのゲームにはある裏の目的が運営により巡らされています、それは「魔法少女の素質」のある女性を見出すといった調査の用途です。

実際にこのゲームによって幸運にもさまざまな少女や女性が、魔法少女として変身機能と制限付きの異能を手にすることとなり、めいめいはこの力の使い道を少しずつ見出し始めます。

ですがあるとき、運営は唐突に一つの通告を行いました。

魔法少女を増やしすぎてしまった、これより一週間ずつ社会への貢献度ポイントが下位の者からその資格を失わせるものとする──と。


まあ簡単に言ってしまえばこの作品は異能力バトルロイヤル的な要素の含まれたライトノベル作品です。

ただこの作品の一つの特徴として挙げられるのが「魔法少女は素質を持つ生物学的雌であれば何歳でも成ることが出来る」という設定ですね。

これがどういうことかというと、どんな年配であれ年端も行かない少女であれOLであれ変身さえしてしまえば本来の姿を大きく離れた美少女に代わることが出来るといったちょっとしたアバター的二面性が物語の中で重要なポイントを押さえている、といった点です。

またこの一冊では若干わかりにくいとは思いますが、この作者は異能力を意外な方向に活用する展開を文字の中でとても鮮やかに描くことが特徴で、私の中では記憶を消して読みたくなるタイプのシリーズです。

あと女女感情。

女女感情があまりにもうますぎる、作者の性別は不明ですが女性の心理描写が生々しくて分厚すぎるいい意味で人の心が無い書き方もする。

クッソド重いです、無印はそうでもないかもしれなくてもこの描写の容赦なさは続編のたびに加速しています。

それでいて十六人というちょっと多すぎるぐらいの美少女たちを時に凄惨にテンポ良く脱落させながらも、バッキバキにキャラを立てて書き分けているのも大好きです。

作者がそもそも魔法少女という概念に対して愛が強すぎるのが分かります、よくある設定に乗っかるのではなく流れを踏襲しながらも自己流の世界をきっちりと混ぜ込んでいる。

ちなみに今では魔法少女が悲惨な運命と人間関係の対立に巻き込まれる作品はわりかし多くありますが、まどかは2011年発表作品、まほいくは2012年出版かつ大賞公募エントリー作品ですのでちょうど始祖のあたりと言ってしまってもよいかもしれません。

ちなみに脱落してしまったキャラも、後々にヒットしてから出た短編集できっちり補完してきますこれがしんどい、推しはあの日生きてた……。

推しはねむりんとトップスピード、あとスノーホワイトです。

ちなみにアニメ版は若干短編集を踏襲して再構成されているので、このあたりの日常パートが厚く濃くなっていますね。

またあまり日の予定が良くなかった日にはまほいく続刊の話で乗り切っていこうと思います。


まほいくを読め。

人都でした。



2020年10月8日木曜日

08、さまよう刃

 こんちは人都です。

今日は絶対に外れないものが読みたかったので父親の「東野コーナー」からこの本を借りてきました。
さまよう刃 (角川文庫) 東野 圭吾 https://www.amazon.co.jp/dp/4043718063/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_WlYFFbYX0YHVZ
東野作品大好き、なかなかの物量があるのと取り上げる内容のボリュームで身構えをする必要はありますけれど。

この物語の中心となるのは独り身で娘の絵摩を育て上げた男、長峰重樹の動向です。
彼はかつてスポーツとして射撃を嗜んでいた以外には、特に変哲の無い一般的な会社員でした。
いえ、もう一つ付け加えるのなら彼は娘を心から愛していました。
その平穏でほほえましい程度の過保護さは、彼女のにより跡形もなく破壊されます。
ある花火大会の夜、せがまれて買い与えたピンクの浴衣に身を包み友達と共に河川敷の祭りへと繰り出した十五歳の少女が父親の下に帰ってきたのは、数日後の荒川の下流に流れていた後でした。
事件でした、それは何者かによって娘の命が奪われたという事実を意味しました。
警察はしかるべき調査や死体状態の確認を行ったうえで、ある推測にたどり着きます。
それはこの事件の加害者が殺害に活用したのは覚醒剤であったこと、彼女は遺棄の寸前まで強姦を為されていたこと、そしてその犯人はどうにも少年の集団であるらしいという事実です。
はじめ、警察はこの事実を長峰に伝えずにいました。
ただでさえ錯乱するような事実を確証の無い段階で伝えるのは、ただいたずらな動揺をもたらすのみと判断したためです。
しかしながら、彼はこの事実をある一本の密告電話により知ることとなります。

密告電話に導かれ、訪れたアパートの一室には剥かれた娘の桃の浴衣一式と何本もの「ハメ撮り」のビデオテープ、男性器を咥えさせられ呆けた顔をする自らの娘の映像。
怒りと動揺と死に至る直前の最期を眼前とした父は、偶然帰宅した加害者の一人を衝動的に刺殺し、男根を包丁で切り落としました。
そして彼は決意します、国が法が加害者を擁護するように檻に入れてしまうなら、自分がいずれ裁かれることになろうとも、この手で娘の仇を取ると。
復讐が無意味であることを、彼は知っていました。
そうだとしても、彼はこの手で自らの娘を殺した男を討ち取ることが出来るのなら死刑になっても構わないという決意を胸に密告電話の示唆した加害者の逃走先へと足を運びます。
週刊誌が喚き、ワイドショーが当たり障りなく悲観し、指名手配書が全国に撒かれてしまおうとも、もうすべてを亡くした彼には失うものはありませんでした。
彼は被害者か、それとも加害者になってしまうのか。
失われた命が戻らないことを知りながら、虚ろにもがく苦しくも悲しい推理小説であり社会派長編です。

ところで今年の夏に少年法の改正案として成人年齢の引き下げに伴って18、19の年齢にも厳罰を科せるように議論が進んでいるのはご存じですか?
その法案がもし現状のまま成立するのなら、この作品に登場するような加害者も一般的な刑事事件の対象となり、実名報道も解禁されるのかもしれませんが……。
少年であるなら何をしても許される、というのは乱暴で極端な言い方ですがいわゆる「少年A」という健全さの保護膜について被害者の視点から銃弾を撃ち込むかのような作品でした。
私にも答えは出しかねます、作内の警察たちも自らの行動に幾度となく不安を抱いていました。
警察は法を守るのであって、厳密には被害者を完全な形で守ってやることが使命ではないという矛盾。

やっぱり東野作品は読後のどっしり感がすごいです。
とてもおすすめです。
人都でした。

2020年10月7日水曜日

07、バーチャル・テック・ラボ‐「超」現実への接近-

こんちは人都です。
一介のVのオタクです。
今日読んだ本は「バーチャル・テック・ラボ―「超」現実への接近」です。
バーチャル・テック・ラボ―「超」現実への接近 舘 ススム https://www.amazon.co.jp/dp/4769350546/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_72CFFbQJNPA3J

今日も前置きをしておきます、今回の本も中身をろくに読むことなくタイトルで釣られクマした内の一冊です、神保町の魔力。
この本は1992年に出版された本で、どうやら当時の生まれたばかりの「バーチャル」という概念については最先端であった知識人たちの評論文アンソロジーとなっていました。
パソコンが一般家庭に定着するよりもずっと前の黎明も黎明な時代に研究者たちが製作したごつごつと拘束具めいたルドビコ療法に見まがうようなフェイストラッキングや操作キャラの存在座標を固定するための胴体を束縛した上で使われるVRツール等が白黒の写真で掲載されています。
またいわゆる今のVRチャットにも似た、対面で会うことなく架空の物質を共に眼前としながら語らうような技術の雛形についても論じられていました。
今でこそ無線やカメラで現実の動作をパソコン内に映し出すことは容易な内にあるのでしょうがlainよりもさらにマシマシな過去の有線の中にも、現実を拡張し演算で時間すらも飛び越すようなバーチャルは大きな期待をすることの出来る技術として論じられていました。

というかね、オタクは単純なので「バーチャル」って言葉だけでこの本を購入してみたのですが、紙面をめくれば現れるのは拡張現実の可能性を論ずるのと同等の量の実際に現実を拡張するための器具の図面解説、及びそれの伴った数式です。
あのね、たぶんこれ参考書とか、そういうやつです。
もちろん縛りも入れているのですべて読破しましたが、いくら興味があっても古本でもガチ文系にはマジで宇宙猫みたいな顔しかできませんでした。
本についていつも通りサーチを入れたら論文の出展にされているのを見つけたぐらいです……。
そもそも「テレイグジスタンス」なんて概念は初めて知りました、すっごく簡単に言うなら非常に臨場感のある状態で遠隔操作を可能とする技術を指す言葉だそうです。
これらの例示に出されていたのはロボットですね、いかにして遠い場から人間の感覚とカメラを介した臨場感を同時に生かして繊細な作業を可能とするか、操作者の視認によって障害物を回避するといったことを焦点に充てていました。

バーチャルについて簡単にいうなら「そこにはないものを拡張し実現し可視化する」というようなものなのでしょうが、この本はそんな技術を当時に想起し実際に実現しようとした研究者の熱意に満ち溢れています。
画面の向こう側は常に拡張を続けています、それはいわゆるVの者に限ることはなくシュミレーションやアトラクション、ロボット技術においても同様の話です。
まあ実際にたぶんキズナアイがなければこんな生活は送っていないでしょうし、じゃあキズナアイはどこから来たのかと言えば、今まで知りえなかった現実を拡張する者たちの積もり積もった経験によって成り立っているのでしょうか。
……まあためにはなりましたが、この文集は文系には六割の理解が限界でした。
無駄な読書はこの世のどこにも存在はしませんが、本当にタイトルとか表紙だけで買っているとこういうことはまれに発生します。
将来を知るために過去を知ることは大事ですね、でもこれは読み物というより学術書でした。
それでは人都でした。

2020年10月6日火曜日

06、あなたには帰る家がある

 こんちは人都です。


今日読んだ本は直木賞作家である山本文緒の「あなたには帰る家がある」という、ちょっとドロッとした恋愛小説です。

あなたには帰る家がある (集英社文庫) 山本 文緒 https://www.amazon.co.jp/dp/4087487385/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_TkhFFbHD5MA2X

この小説は父親の本棚から拝借してきたものです。

私の父は私とおなじかそれ以上に本を愛好しており、棚にはまた私とは違う系統の文庫が並んでいます。

まあ、私が時代劇物が唯一苦手なために三国志やマイナーな武将をメインとした本には手を伸ばせないのですが。


この小説の中心となるのは二組の男女、住宅セールスを生業とするサラリーマンの秀明、行動派かつ真っすぐな性根を持った幼い娘を抱える真弓の夫婦と社会科教師で茄子のようだと形容される太郎、その妻の危うく異様に美しいけなげな綾子とその一家です。

あえて先に言ってしまいましょう、この小説の主軸は不倫関係にあります。

こういってしまえばなんだ不倫か、よくあるドラマの美化不倫みたいなやつか、と思われるかもしれませんが、そんなありがちな不純さを単純に結論付けられない形に運んでいる描写の手腕がとてつもないのがこの小説です。


この物語は茄子田が思い付きのように新築を買うことを考えるシーンから展開されていきます。

そしてそれに従って彼の一家は住宅展示場へと足を運びその過程で契約の取り付けに励む一介の会社員、秀明と顧客とスタッフの間柄で知り合うこととなるのでした。

住宅展示場は家にまつわる、まさに理想を形にしたような設備が様々に展示されたちょっとした夢のテーマパークのようです。

子供たちははしゃぎ、それに釣られて周囲の大人たちも金額を横に置きながらサウナや星の見える天窓、最新の二世帯住宅の形について希望を口にしていきました。

しかしながら、太郎が荒々しく品のない口調で要望を語りだせばその他の身内は全員黙り、太郎の言うがままを是とするように振舞います。

営業マンである秀明は戸惑います、契約をいかに取るかが評価に結びつく世界では高いオプションを付与できる可能性のある潜在顧客は手放したくはありません、それなのに先ほどまでの希望をまるでなかったかの様に茄子田家の一家は黙ります、何より家を施工する際に最も話し合うべき家族間の意見は太郎以外は全員異なっているはずなのに誰も対話すらしようとしません。

茄子田家のような複数世帯の潜在顧客を狙い目とした秀明はそれ以降何度も自宅へと足を運び、手を変え品を変えどうにかして綾子をはじめとした一家との交友を深めることに力を注ぎ始めました。

その内に彼はこの家の歪な構造と立場関係、そしてその中に一人だけ他所から嫁いできた綾子の脆さを目にします。

懸命に家事をこなし食事も品数多く作り上げ、理想的な食卓を作り上げるその椅子に太郎が座ることはありません。

なぜか?簡単です、彼は口調が悪く醜悪な割に適当な女を口説く癖があり、風俗やスナック通いを行う男なのですから。

綾子はそれを知っていて、それすらも飲み込み毎日を模範的な母と主婦として巡らせていましたが、その日常の中に突然訪れたのが秀明という並みにハンサムで自分の家事を褒めてくれる唯一の男性でした。

彼と彼女はそうして逃避的な恋愛に身を投じます。

と言っても駆け落ちなんてできるほど夢想的な二人ではありません、なぜならそこには仕事があり、子供があり、そして二人は既に「避けることの出来なかった結婚」という縄に縛られた者同士であったから。


秀明も前述のように既婚者であり、家には妻と幼い子供を抱えています。

そして彼も全く出来た男というわけではありません。

どちらかと言えば男が働き女は家業に励めよというソフトな男尊女卑を抱えた非常に古典的な男性で、その思想を種として妻との間には確実な不和を生んでいました。

ええ、その不和から彼の妻は子供を保育園に預け労働に復帰を試みることとなるのです。

それは頭の凝り固まった、家事を一ミリも手伝いやしない夫への小さな反逆でした。

小さな小さな日常のゆがみが確かに波となって、静かに登場人物たちを擦れ違わせ傷つけ走らせる、そんな現実的で全く浮つくことの出来ない恋愛小説がこの作品です。

登場人物たちは読者にとって皆が皆好きになりきれず、共感が可能でなおかつ非常識ではない程度にささやかなズレを抱えたとてもリアルな人間たちです。

女癖の悪い太郎にしろ、ヒロイックな綾子にしろ読み進める内にその人間が如何に立体的な存在であるかあなたは気づかされることになるでしょう。

不倫に限らず、仕事に男女に家庭の在り方に愛に利益に多様性に、とにかく様々な糸が絡みあってこの閉塞的な物語を道徳の意地悪なトロッコ問題かのように複雑にしていきます。

きっと誰の考えも欲も正しくはありません、ではせめてこの相容れない問題をできる限りの幸せを持って走りきるのにはどうすればいいの?

タイトルの「帰る家」は救済でしょうか、それとも束縛の皮肉か。


ちなみにドラマ版もあるようですがそちらは若干人間関係が変更されていてほとんど別物だとかなんだとか。

個人的には一筋縄ではいかない物語は大好きなのでとても満足できましたし、様々なことを考えさせられる小説でした。

とてもおすすめです。

人都でした。

2022/2/6

  こんばんは、人都です。 お久しぶりの更新ですが、またあまり快いことを書かないことを許してください。 本当にこの場所が肥溜めのようになっていることを案じてこそいますけれど、本来は絵よりも文のほうが気楽な私には重い悩みは絵にぶつけるよりも書き出す方が安眠剤になるのです。 私の親が...