こんちは人都です。
今日も図書館の廃棄救済枠の本を読みました。
Mermaid Skin Boots 桜井 亜美 https://www.amazon.co.jp/dp/434401068X/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_qtAKFbZBSQ67E
なにかそういうタイプのモデルさんの写真集にも見える独特な俗っぽさ、とけだるげな視線。
タイトルのよく考えれば意味の分からない「マーメードスキンブーツ」という言葉は何を指示しているのか。
それは2005年にフリードリッヒ・フォン・ワルターの提唱したDNAの可能性を論じた意見からの引用でした。
この物語の主人公は美大で彫刻を専攻する20歳を目前にした破滅的性分を持つ女性、綾瀬ナジュです。
彼女は元来漫画絵やイラストを好んでいましたが、爛れた壊れかけの家庭はそれを許さず結局離縁するような形で夢を優先させることでナジュの現状は成立していました。
その現状とは大学をふまじめに修めつつ、退廃的に搾取されるためのセックスフレンドを五人も侍らしてはダーツで当たったものを気晴らしのために呼び出すという、到底清いとは言い難いどろりとした美学以外には何もない乱雑な「エロいおもちゃ」を演じる生活です。
そんな生活の中では、彼女は自身のことを高い頻度で人魚姫に、一人暮らしの部屋を最高の理想の世界観を実現する城として改装し、見立てるようにして評価を下します。
何故そんな半ばうぬぼれたことがいえるのか。
それは奇妙な偶然か呪いによってか、彼女の家系の女が20歳でどんな状況であれ命を落とすという不可思議なジンクスにまとわれていたからでした。
実際に彼女はそのせいで身内も、最も大切な姉も失ってしまった過去があるのです。
そしてそんな家庭の中、父親はナジュを不潔でだらしがないと終わらない批判をぶつけるだけの存在となり果てていました。
彼女は結果的に家を出ることで志望進路へと歩みを勧めたものの、その先にあったのは「自分には才能がある」という自惚れのみでは戦うことの出来ない世界です。
ぐちゃぐちゃな思想の学生たちと、ある程度の距離感と共に囲まれながらナジュの劣等感と寂しさ、そして悲しさは加速していき、その度にダーツで決めた歪んだ関係性のセックスフレンドを自らの体調に構わず「城」に呼び出す毎日。
数少ない正常な日常は美大アトリエでの敗北を感じながらの製作と、アルバイト先での交わらないセフレ抱え仲間である演劇派クズ男とのどうしようもない雑談。
彼女は対外的評価とは全く異なり、巨大な自己否定と孤独に殺されそうになる心細い生活を送る自分を大切に扱おうとも思えない、そして誰の唯一にもなることの出来ない人物でした。
しかしある日、彼女がアルバイトにより取り損ねた単位の補填課題をこなすため海外へと向かった時、飛行機で隣り合っただけの男・霧帆と偶然に会話を交わし今まで感じたことのない夢のような恋愛感情を持ってしまいます。
そしてそれまで彼女の周囲にいた男性は、自分の誰かの互換品として扱うような者ばかりであったことに納得しながらも静かな恐怖を抱きます。
了承の上とはいえ彼らのほとんどには既に彼女がおり、少なくとも誰一人として彼女を一心に見据える者は存在していなかったのですから。
自らを人魚に見立て一般人を別世界の人であると扱いながら、彼女は予測される寿命を恐れ陸地へのあこがれ、一般的な普通の恋愛へのあこがれを抱いてしまいます。
もし自分かもうすぐ死んでしまうとして美術作品もぱっとせず、自分を強く求める者もいない中で私はこの世に何も遺せずにいなくなっちゃうの?
家系に伝わるジンクスが真実であるならば、ナジュにとっての人生はあと一年の猶予しか残されていません。
私に今から人生の在り方を変えることなんてできるんだろうか。
最早入学当初ほどの夢も情熱も無くして、まだやり直せるのだろうか。
落ちこぼれの大人になりきれない美大生は悩み、もがきます。
果たして彼女に未来は訪れるのでしょうか。
彼女は陸に上がり、人間になることは叶うのでしょうか。
なんというか、本当に一人のこじらせた女子大生の世界ですべてが完結する小説です。
二十歳で全てが終わってしまうだなんてジンクスは、別に作中では細かい描写を伴わないために単にナジュのある種の強迫観念か妄想ではないかと思わせるほどぼんやりとしています。
それでも若干の異常は感じられるほどに彼女の一家の女は二十で倒れてしまっているのですが。
ライチ☆光クラブが聞いたら卒倒しそうなことばかりだなって思いました。
一番美しいまま終われるなら私もその方がいいんだけど。
あと美大がテーマであるために、日常のパートとしてアトリエのシーンが多く登場しますがその中の「壊れ方が足りない」から君には作品への成果が表れない、という表現は若干でも美術をかじるものとしてはわだかまりのようなものを感じました。
作者が述べたかった表現としては、感情の爆発やあか抜けた感触を指示していたのかもしれませんがこの性と愛を強く語る小説において美術の学習として壊れることを勧めるのは、ちょっとどうなんだろうなと思いました。
いや……こういう意見が「恋愛小説にマジレス乙」の可能性は非常に強いですけれどね。
感情論や愛でどうにかなる美術はあまり私の好むものではないし、せめて真摯に技術を磨くシーンぐらい挟んでくれればよかったのにと思ってしまいます。
ただ作品内に登場する具体的なブランド名やアーティストから、作者の美意識の高さはうかがえるなと感じました。
読んでるうちはまあ楽しいけれど、結末が無理やりにも感じられる良くも悪くもふわっとしたスナックな小説です。
私には腑に落ちないけれど、主人公が幸せならまあそれでもいいですけどね…。
これはそんな小説でした。
人都でした。
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