2020年12月10日木曜日

わからないことをわかること

 

こんちは人都です。

突然ですが、皆さんはボーカロイド曲の歌詞の意味をYahoo知恵袋で聞いたり、Youtubeのコメント欄に自論を書き込んだりする時代はありましたか?
私は、別に書き込みこそしませんでしたが漁る事には積極的な部類でどう見ても公式じゃないタイプの考察本にもうっかり手を伸ばしてブックオフに投げ飛ばしていたりしました。
なんだろう、Pixiv百科事典に無意識で書かれた二次創作ヘッドカノンを読み漁って混同したりもした。



小さい頃は何故かしっかりと理解できないという事が嫌で嫌で仕方なく、そのせいもあって早いうちにインターネット有象無象に触れていました。
基本的に元来もやもやとした白黒の付かない煮え切らないなよなよしたものはうっとおしい気がして苦手な部類でしたから、分からない・答えがないという事に良いなと思えたのは割と最近のことです。


およそ1年前に、千葉市美術館で開催されていたアートグループ「目」の企画個展、「非常にはっきりとわからない展」という展示を準レギュラーの友人と見に行きました。
後から聞きましたが大佐はほとんど初めてプライベートで美術館に行ったそうです、巻き込んで誤爆する可能性の方が高かったのになんかごめんな…。
展示系のイベントで写真を撮ることが気性で苦手なせいでまともな画像がありませんから、上手に文面で説明できる気はしませんが覚えているものを書いていこうと思います。
実際展示中は詳細なネタバレは控えてほしいというタイプのコンセプトでした。
もともと完全撮影禁止の展示物なんですけどね、上記の写真はロビーのもので外装以外に唯一撮影許可がされていました。
記憶に加えて別のインターネット報告も資料に加えて書いているのであしからず。
まず美術館に入る前の円柱からして、ちょっとぎょっとするような見た目が出迎えます。
この黄色の群れは来場者が胸に貼ることとなる「AUDIENCE」と書かれたシールです。
ちなみに別にこの円柱のそばに『君も名札を貼って存在証明作品をしよう!』みたいな掲示があるわけでもなく、センセーショナルな見た目の割にこれ自体は展示物でも何でもありません、そうだったはず。
わかんないですよ。
あと私はこういう時に「これが…わからない…アートに言葉などいらぬ…感じるのじゃ…」みたいな俺は賢いフィーバータイムみたいなことをいう系の人種とは相容れません。
説明がない、それだけのことやろ!

そもそもこの展示はネタバレ禁止のやんわりな緘口令が敷かれてこそいましたが、SNS上での序盤感想は語彙力が落ちるぐらい受信した感情の言語化がすっごく難しいんです。
そのあとで若干バズって観客が押し寄せたそうですが、個人的には早めに向かうことが出来てラッキーだったと思います。
この展示物は全体にかけて非常にメタ性の高い内容です。
SCP記事の第四の壁や読者干渉系統を初見で見て感想言えって言われても困らない人?あ、困んない、そう…。

この特別展の特殊な環境として、千葉市美術館が大規模リニューアル中だった、実際に工事現場であったという前提があります。
実際に美術館の外にも工事現場にありがちな柵や廃棄物か資材かよくわからないものが適当に置かれており、ちらちらと土木担当らしい人の姿もうかがえたはずです。
どう見てもリニューアル工事のため休館しております、といった様相。
移動するためのエレベータの中すらも、引っ越しの時に敷かれるようなシートで埋め尽くされていました。
ストレートに言って客に見せる様子ではないと思うんですが、あそこまで演出の内なのかそれともそれすらガチ工事なのかと区切りの認識が混濁しますね。

私たちが訪れたのはだいたい13時。
展示場は7階と8階。
順路の掲示すらはっきりと示されていなかったために、私たちは先に上から見ていこうかという話になりました。

引っ越し中のマンションのようなエレベーターを降りると、そこに広がっていたのは何らかの搬入現場。
足元にはブルーシートがひかれ、何に使うんだという感じの資材や簡単なDIYの類の道具、ほおりだされた雑巾やメジャー。

あ、千葉市美術館という工事現場自体を展示物の舞台にしようとしているっぽいぞ、とここでやっと気づきます。
いや、本当にこれが展示物なら割とバグで事故です、本来客に見せるもんじゃないわ。
エレベーターホールから少し歩みを進めると開けた空間に出ます。
そこには時計の針をたくさん吊り下げたような展示や奇妙な形の絵画が展示されていました。
いや展示途中かもしれません、そこには先ほどの通路と同じく資材や工具、ガムテープが無造作に積まれ、なんかしらんゴミや汚そうなものすら落ちています。
先ほどよりはいくらか「想像できる美術館っぽい(同行者談)」展示ではありますが、そのスペースは大して広いわけではないものだったと記憶しています。
いわゆる視覚的に見ていて楽しく、若干の狂気と執念と思想を感じる実在物。
ただしその中のいくつかは梱包で覆われていて、まともに目に据えることも叶いませんでしたが。
一通りを見て回って「このチームは何を見せたいんだよ?」というわからないを確認した後、私たちは梱包材巻きのエレベーターに乗り込み下階へと移動しました。
今思うとおそらくあの展示を見に行くのには最高のタイミングをとらえることが出来ていたように感じます。

7階に降りると、気づきました。

引っ越し中のマンションのようなエレベーターを降りると、広がっていたのは何らかの搬入現場。
足元にはブルーシートがひかれ、何に使うんだという感じの資材や簡単なDIYの類の道具、ほおりだされた雑巾やメジャー。

そう、全く同じ情景です、ここで若干の「わかる」をやっと獲得できます。
この展示会は7階と8階で全く同じ位置を保ち、全く同じ乱雑さを維持していました。
そこらにほおられた紙屑すらも確か同じはず。
見回ってみても違うところは記憶の限りでは無い。
文字だけで書けばそんなに怖いことはないでしょう、タネは本当に超単純です。

2人で顔を見合わせながら展示場をふらふらしていると立ち入り禁止の奥から複数人が現れました。
見る限りの一般人です、ただ胸元に黄色いシールは見当たりません。
そのスタッフたちはは適当に声を掛け合い何かを指さしたり目星をつけながら、設置してあった道を撤去したりカラーコーンを置いたり、そもそも遮ってしまったりとリアルタイムで展示物の様相を変更してしまいました。
それも掛け合いの内容も意味が理解できるように通っておらず(たしかそのはずです)、それは何の意味を持つのかを分からせないまま目の前で何かが変えられていく。
それも非常にもったりと。
まるで来場客なんて見えておらず、定休日に準備でもするみたいに独特なペースで、ほとんどありえないような不可視なこちらとの距離感で。
展示物であろうものの場所を動かす。
それがぽつりぽつりと、展示エリアにて同時多発的に行われていました。
異様に思った私たちはその「儀式」が終わった後に再び7階に移動します。
するとどうでしょう、初めて目にした時とは展示物の表情が異なりました。
全てがたった今、8階で動かされたはずの様相に変わっているのです。
永遠に何も終わりはしない作業を、繰り返しているだけ。
むしろ展示物に対した意味はなく、異世界奴隷労働回し棒のようなスタッフがあってこそギリギリアートとして成立する空間。

あれです、有名なものにP.T.ってゲームがあるでしょう?
今はもうプレイできないはずの、同じ配置の続く不思議なミニマムな空間を扉をくぐる度に通過しながら、徐々に現れる僅かな差異と異常に怯えることが主の小さなサイレントヒル系列新作告知用ホラーゲームです(たしか)。
あの感覚を肌で、現実で実体験するような空間でした。
私たちは何度かあの空間がわずかに動くたびに確認するための行き来を繰り返し、ついにはその両方の階のどちらが8階でどちらが7階なのかわからなくなってしまいました。

7階と8階の確かで僅かな差異は、7階に併設されたミュージアムショップの有無です。
この展示会の間違い探しの上で、ある種の正気度のセーブポイントでもあるこの店に一度入ろうとしてビニールの暖簾をくぐればそこは8階の掲示物のみの壁でした。
当然エリア内は撮影禁止でしたし、スマートフォンを出せるような状況でもなかったためどこにも証拠を残せない構造です、答え合わせが出来ないんですね。
エリアには均衡を保つためなのか階層表示すら隠されており、今どこにいるのかを確実に知るためにはエレベーターに乗るほかないのです。
上昇する機械というよりもパラレルな世界へ連れていく未来装置になってしまったかのような不安感。
半分巻き込み事故でしたが、同行者を連れて行ったのは正解でした。
美術館を後にして入ったサイゼリアで、食事もそこそこに感じた取りとめの無いことを共有することがようやく叶い、分からずとも若干の安心を得られましたからね…。
あの展示物はこちらにどんな意図をわからせたかったんでしょうか?


手元に残ったのは食べれば無くなる「わからない」キャンディのお土産。
それ以外のお土産商品はポスターや予約段階のパンフレットで、給料日前にはとても手を出せる金額ではありませんでした。
食事を終えて、意味もなく千葉市の科学館に行って、そのあとに再入館をしたものの行われていたことは意味が分からないながらも、永遠に終わらない搬入作業のようでした。
同行者からは別れた後に「工事現場が不気味に見える」と連絡をもらっていました。

的外れを覚悟にあえて言いましょう、「目 非常にはっきりとわからない展」の内容は美術展示というよりも演劇鑑賞に近いものです。
そして現代アートは若干やったもん勝ちというか、度肝を抜きすぎてお前が何を言いたいのかわからないというものもありますがこれは本当にそういう、奇抜かつ地味な剥き出しのアイデアに薄く味を付けた展示物でした。
あんなものを始めて見たために私は衝撃こそ受けましたが、きっと似たようなものをどこかで見てしまったならその時私はつまらないと言うと思います。
もしかしたら永遠に始める気のない展示会かもしれん、セカイ系、気持ち悪い、美しいわけじゃない、やろうと思えば誰でもできる。
誰が見ても美しいではなく、誰が見ても理解できない。
わかるを与えてくれるキャプションが入り口とパンフレットにしかないんですよ、あれは立体的な演劇の舞台を鑑賞者に歩かせる実験です、ついでに説明はなく。
答えのない謎解きを豪速球で投げかけてきたのに、答え合わせのシートはどこにもない。
ただし、その代わりの描写の緻密さが狂気的。
あと運よく私たちが8階で最初に動かしているところに出くわさなかったのも運が良かったのだと思います。
よく言えば考えさせられる、めっちゃ悪く言えば丸投げのアートです。(ただパンフレットを購入しなかったのでこちらが知ることを怠った点もある)
ただ、その演劇と言わない演劇がこちらに異様な緊張感を持たせたことも事実です。
スタッフたちの前で地蔵していれば、一連の行動軸は分かるのかもしれませんが理解には及ばない、それが不気味です。
わからない展のチケットは珍しいことに、一度買えば会期中何度でも訪れられるという定期券めいたシステムがすべてに付いていてそれを考えると妥当な入場料だったのでしょうが、Twitterとかでバズってワクワク!とか話題の美術にドキドキ!みたいな気持ちでいくと肩透かしを食らうんだろうな…とは思いました、私は嫌いじゃないですけどね。
私は私の知らない面白いことをする、贅沢で意味も分からないものが好きです。


最近好きな作品の一般評判が悪いことが多く、価値観が普通ではない恐れが出てきて困っています。
わからない展も黒箱展ほどでないにしろ賛否両論でしたね。
でも黒箱展はやってる人のことが好きません。
黒箱展は小さな個展会場に暗所を作り上げてそこに観客を入れてかき混ぜるような展示でしたし、サザエさんbotみたいな存在は私の性根からして苦手です。
出オチネタは作りこみが丁寧だと時間の素材が贅沢で良いですね。

挿絵を増やそうとしたら永遠に更新できなさそうなので、ここで終わりです。
人都でした。

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