2020年10月8日木曜日

08、さまよう刃

 こんちは人都です。

今日は絶対に外れないものが読みたかったので父親の「東野コーナー」からこの本を借りてきました。
さまよう刃 (角川文庫) 東野 圭吾 https://www.amazon.co.jp/dp/4043718063/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_WlYFFbYX0YHVZ
東野作品大好き、なかなかの物量があるのと取り上げる内容のボリュームで身構えをする必要はありますけれど。

この物語の中心となるのは独り身で娘の絵摩を育て上げた男、長峰重樹の動向です。
彼はかつてスポーツとして射撃を嗜んでいた以外には、特に変哲の無い一般的な会社員でした。
いえ、もう一つ付け加えるのなら彼は娘を心から愛していました。
その平穏でほほえましい程度の過保護さは、彼女のにより跡形もなく破壊されます。
ある花火大会の夜、せがまれて買い与えたピンクの浴衣に身を包み友達と共に河川敷の祭りへと繰り出した十五歳の少女が父親の下に帰ってきたのは、数日後の荒川の下流に流れていた後でした。
事件でした、それは何者かによって娘の命が奪われたという事実を意味しました。
警察はしかるべき調査や死体状態の確認を行ったうえで、ある推測にたどり着きます。
それはこの事件の加害者が殺害に活用したのは覚醒剤であったこと、彼女は遺棄の寸前まで強姦を為されていたこと、そしてその犯人はどうにも少年の集団であるらしいという事実です。
はじめ、警察はこの事実を長峰に伝えずにいました。
ただでさえ錯乱するような事実を確証の無い段階で伝えるのは、ただいたずらな動揺をもたらすのみと判断したためです。
しかしながら、彼はこの事実をある一本の密告電話により知ることとなります。

密告電話に導かれ、訪れたアパートの一室には剥かれた娘の桃の浴衣一式と何本もの「ハメ撮り」のビデオテープ、男性器を咥えさせられ呆けた顔をする自らの娘の映像。
怒りと動揺と死に至る直前の最期を眼前とした父は、偶然帰宅した加害者の一人を衝動的に刺殺し、男根を包丁で切り落としました。
そして彼は決意します、国が法が加害者を擁護するように檻に入れてしまうなら、自分がいずれ裁かれることになろうとも、この手で娘の仇を取ると。
復讐が無意味であることを、彼は知っていました。
そうだとしても、彼はこの手で自らの娘を殺した男を討ち取ることが出来るのなら死刑になっても構わないという決意を胸に密告電話の示唆した加害者の逃走先へと足を運びます。
週刊誌が喚き、ワイドショーが当たり障りなく悲観し、指名手配書が全国に撒かれてしまおうとも、もうすべてを亡くした彼には失うものはありませんでした。
彼は被害者か、それとも加害者になってしまうのか。
失われた命が戻らないことを知りながら、虚ろにもがく苦しくも悲しい推理小説であり社会派長編です。

ところで今年の夏に少年法の改正案として成人年齢の引き下げに伴って18、19の年齢にも厳罰を科せるように議論が進んでいるのはご存じですか?
その法案がもし現状のまま成立するのなら、この作品に登場するような加害者も一般的な刑事事件の対象となり、実名報道も解禁されるのかもしれませんが……。
少年であるなら何をしても許される、というのは乱暴で極端な言い方ですがいわゆる「少年A」という健全さの保護膜について被害者の視点から銃弾を撃ち込むかのような作品でした。
私にも答えは出しかねます、作内の警察たちも自らの行動に幾度となく不安を抱いていました。
警察は法を守るのであって、厳密には被害者を完全な形で守ってやることが使命ではないという矛盾。

やっぱり東野作品は読後のどっしり感がすごいです。
とてもおすすめです。
人都でした。

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