2020年10月5日月曜日

05、血(新堂冬樹)

こんちは人都です。

本屋の文庫本コーナーってワクワクしますよね。


今日はそんな文庫本コーナーで表紙買いをした小説を読みました。

血 (中公文庫) 新堂 冬樹 https://www.amazon.co.jp/dp/4122068320/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_zQYEFb0YWB4EA

赤黒い背景を背にどろりとした赤い紐のような靄のような血管にも似た繊維が虚ろかつ艶めかしい視線の女子高生を包んだ表紙

私が本当に腹に据えて表紙買いをするときは後ろの説明文すら読まず本屋に入って五分でカタをつけるぐらいの勢いを大事にしているのですが、もうこれは三分スマッシュでレジに出しました。

ちなみにこの小説は読後に調べたところ漫画版もあったようで、そっちはそっちで表紙のインパクトがマジでした、読後まで検索しないことを勧めておきます。


この表紙を飾る冷たい目の少女の名は本庄沙耶。

物語の主人公であり、紙面の全ての視界は彼女の物のみで描かれていきます。

冒頭シーンは自らの祖母の告別式、その厳かで悼むべきシーンでありながらその中で主人公の沙耶の視界に入る身内の姿はどこか楽し気に映りました。

一家の団欒、のように見えてどこかの歯車だけが欠けてしまったかのような歪な会話はそれでさえ家族という型の中に納まってしまえばまあそれもそれだよねと済まされてしまいます。

沙耶を形成した環境はそのような歪んだ血族の中にありました。

歪んだ、といっても世紀の大犯罪を犯したわけでも、身内にドラマによくあるような死刑囚を抱えているわけではありません。

九割を誇張した法螺吹きの小心者、女を見下しレイプに躊躇しない不労働の男、身内の金を盗みJKお散歩風俗に充てるロリコン、自分の弟を事故として殺した疑惑のあるすっとぼけた老人、不信をこじらせ攻撃発言しか行えない金持ち、金のためなら他人を駒にするレズビアン……。

一言で言うなればクズです。

この小説を構成するほとんどの要素は吐き気を催す邪悪の連続だといっても過言ではありません。

そしてある時、この血筋に一つの大きな衝撃が走ります。

夜、彼女がトイレへと席を外した瞬間、沙耶の眼前で自らの父母が目出し帽の男に殺害されたのです。

彼女はとても哀れな少女です、どんなクズでも母は母、父は父。

沙耶は周囲に不安がられたり、同情されながらもあくまで明るく振舞おうと努めます。

それでも彼女の周りのクズ身内は次々と不審な事故に遭遇し、いよいよ報道は過熱しながらインターネットのスレッドには「沙耶姫」を憐れんだり過剰に物語化する集団も発生していきまし。

時が経つにつれ、そんな声は同情からだんだんと畏怖、恐怖またはオカルテックな呪いへと移り行き。

沙耶を中心に巻き起こる血族の血の惨劇、その理由は?

彼女はいったい何者なのでしょう、確かなことは彼女の引くは確実にそのクズの家系に流れるものに違いないという事実です。

彼女を取り巻く血が絶えて行けども、彼女を構成する体内に息づく遺伝は確実に本庄の家系のものであるのです。


そうですね、職場で吐き気を催すクズに出会った時には最適なサスペンスかもしれませんね、どんな状況だ?

一応このブログでは必要以上のネタバレは話さないよう心がけているのですが、そうするとすごく語る難易度が上がるのがこの小説です。

これは褒め言葉として言いますが、この作品は邪悪なスカッとジャパン的ジャンルに位置します、眼前はやたら凄惨ですが描写はさらりとしていて引き摺らない、サクサク読める邪悪、共感できてたまるか。

確かに小説自体は一つのまとまりの中にありますがその内容は短編小説の集合体のように割と明確に場面が変化していきます。

構図は分からされてしまえば非常にシンプルです。

そのね、全方向クズの小説です、自分が大好きなクソしかいらっしゃいません、どいつもこいつも他人を心のどこかで見下しながら我をねじ込もうとする腐った性根、まともな人間はいないんでしょうか。

面白いですが、本当に表紙の印象をそのままずっと持っていきます。

そこまでやるか?と訝しむシーンもないことはないのですが、その理由もあまり分かりたくない気持ちで理解をさせられる、そんな胸糞の要素の強いスナックな娯楽小説です。

そうですね、血は争えません。

おすすめです。

人都でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿