2020年10月3日土曜日

03、弟切草

 「──私は妻を殺した」



こんちは、人都です。

今日は角川ホラー文庫版の「弟切草」を読みました。

弟切草とは大昔の名作ホラーノベルゲームで選択肢が非常に多岐であるゲームの走りとして認知していますが、当然のように未プレイです。

なんならダンガンロンパのスピンオフ作品である「霧切草」の方から知ったぐらい。

前もって言っておくのであれば、この本はゲーム「弟切草」の純粋なノベライズ作品ではありません。

閲覧者さんはPHP研究所系のサブカルゲームのノベライズを手に取ったことはありますか?

その中でも…青鬼シリーズのノベライズで目にする形式のようなちょっとだけずれている、何なら作中にはどうも「弟切草」というゲームが存在するらしい……そういう前提の全く新規な登場人物によって構成されたオリジナル展開の小説です。

そういって意味では原作を履修していなくともある意味フラットな視点で読むことの可能な作品であるとは思います。


主人公はゲーム「弟切草」の主人公と同名のそのゲームを作中世界で製作した張本人のゲームデザイナー、公平。

そしてその恋人の奈美の二人を中心とした怪奇な一夜がこの弟切草のストーリーのメインとなります。

逆に言えば前半部分まではこの二人以外の「現実の」登場人物はほとんど登場せず、そればかりかご丁寧にシーンの語り部を代わる代わる交代しながら、彼と彼女の視点の両方で物語は語られていくことになるのです。

そして彼と彼女というとてもお似合いのアベックが、その両方が相手にとても言うことの憚られるような過去の汚点を抱えた人物であることはこの入れ替わる視点の中で最も大きなサスペンスの要素となります。

この小説の大きな特徴はその主観を同時に読者が知りながら読み進めていくといった点でしょうか。

恋人同士の公平と奈美は深夜、ドライブデートの最中に奇妙な怪奇現象に襲われます。

雨の中、フロントガラスに弟切草が叩きつけられ、ブレーキは機能不全を起こし、山を滑り落ち、路頭に迷いながら幻覚に誘い込まれるようにして廃墟めいた洋館へと誘い込まれる。

そしてその展開はまるで自身の作ったゲーム「弟切草」に冗談かと思えるほどに似ているような─。

この小説の全体の印象はおどろおどろしく、不可解で、主人公たちの思考ですらも偽ではないかと思わせる場面を多く持ついい意味で気持ちの悪い表現の多い一冊です。


ただし、ネタバレにならない程度で付け加えておくのであれば、物語の後半は若干どうしてそうなったのかが不可解な部分が多いような気はどうしてもしてしまいます。

他メディア系作品のノベライズ作品として仕方ないのかもしれませんが、「原作リスペクトなのかな……」と思わせる情景描写が多いわりに、そこ書く必要あったのかなと思わせるシーンは若干多いような気はします。

ホラー作品は発祥コンテンツかつ無印が一番面白いなんて無限に言われ果ててるとは思っていますがね。

あと脅かしのシーンもなんというかあんまり緊迫感がないというか、目の前のありえたらいけない光景よりも誘発性のPTSDの方が苦しんでる気がしたし、危機的状況での性的要素の入れ方がなんというか……な……いらない卑猥……。

元がサウンドノベルですから、難しい点ではあるのでしょうけれど。

なんというか、文章で怖がらせてくる表現の鮮やかな得体のしれないホラーが読みたい!というときに読むと若干肩透かしを食うかもしれません。

私は冒険的に読んでみようと思ったから、まーそんな日もあるよねぐらいですが、ホラーが本当に読みたい日にこれを手にとってもちっとも怖くないと思います。

でもジャンルをミステリやサスペンスにするにしてもちょっとラストまでの持っていきかたがあんまり……言いずらいんだけどな……作者の方がなんらかに追われてたのかな……。

好みが分かれる作品だと思います。

基本イエスマン気質な私が表現を濁すぐらいです、察して、あたしだってあんまりマイナスなこと書きたくないけど自分で一日一冊縛りしてしまったんだよ。

いや、ゲームをやってればまた違う視点で見られるのかな……?

あとあんまり読みやすいとは言えない部類の描写が多い気もします。

ネタバレはしたくないんだけど、めちゃくちゃおすすめとはちょっと言いづらかったかな。

そういう日もありますよね。

人都でした。


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